第230章 彼女に心を動かされやすくなっていく

しかし、家庭の様々な事情により、この件は遅れてしまった。

彼は常に彼女の面倒を見たいと思い、兄としての責任を果たしたいと考えていた。

しかし、時枝秋は彼に対して兄妹の情など全くなく、むしろ限りない嫌悪感しかなかった。

彼自身も、一体何がいけないのか分からなかった。

妹の髪を梳かすというシーン、長い間想像してきたが、それはただの想像に過ぎなかった。

まさか本当に実現するとは思わなかった。

時枝秋とこのような和解を果たせたことは、実際には彼の耳が治ったことよりも大きな意味があった。

妹の笑顔を見て、兄としての責任を深く感じ、彼女の笑顔に自然と感染された。

背中に冷たい感覚を感じるまでは、思わず振り返ってしまった。

振り返ると、藤原修の冷たい視線が見えた。

堀口景介は彼の目の中に言い表せない怨念のようなものを感じた。

時枝秋もそれに気付き、堀口景介の腕を離した。

藤原修の視線は少し和らいだが、その怨念はまだ残っていた。

時枝秋は手を伸ばし、堀口景介が触った髪を、もう一度梳かし直した。

藤原修の怨念は少し薄れた。

堀口景介も気付いた、自分が無意識のうちに、ある人の嫉妬心を刺激してしまったことに。

しかし、彼はある人の嫉妬心がこれほど強いとは知らなかった。

時枝秋は前に数歩進み、藤原修の腕に手を回した。

堀口景介はようやくある人の冷たい視線が消えていくのを感じた。

「あなた、お兄さんの耳が治ったわ」時枝秋が先に結果を伝えた。

「予想通りだ」藤原修は時枝秋の技術に自信を持っていた。

堀口景介は今や耳が敏感になり、二人の甘い会話をすべて耳に入れてしまった。

まさか、耳が治った後、最初に二人の甘い空気を味わうことになるとは。

「あの...私は向こうで父を見てきます」堀口景介は先に退散した。

時枝秋は言った:「私たちも一緒に行きましょう」

藤原修はもちろん異議なし、義父さんと義母さんに会うことは、時枝秋が喜ぶなら何度でも構わない。

三人は一緒に尾張靖浩の病室へ向かった。

現在の尾張靖浩は、すでに普通に歩けるようになっていたが、後遺症を心配して、堀口碧と堀口景介は彼にもう少し観察期間を設けるよう要求していた。