以前、堀口碧は遠回しに言っていた。この娘は思慮深く、活発だから、もし彼女と時枝秋の関係が良ければ、尾張家は彼女を助けてあげてもいいと。
堀口景介は彼女の言葉に込められた意味を理解した。
可能であれば、彼女を助けてあげられる。
逆に、彼女とはあまり関わらないほうがいい。
堀口景介は、かつて時枝雪穂を訪ねて贈り物をした時、彼女が表面的には喜んでいたものの、極めて隠微な嫌悪感が思わず浮かんだ場面を思い出した。
時枝雪穂は尾張家との全ての関係を嫌悪していた。
反対に、時枝秋もその時は嫌悪感を抱いていたが、時枝秋が怒っていたのは彼らが迎えに来なかったことで、彼女が怒っていたのは人に理解されない寄る辺なさの辛さだった。
そう考えると、堀口景介の眉間に心痛と後悔の色が浮かんだ。