時枝秋がドアを開けると、最初に時枝雪穂の姿が目に入った。見たくない人に対して、時枝秋の態度は良くなかった。
彼女は眉目を少し伏せ、その物憂げな様子に冷たさが混じっていた。ゆっくりと季山梨香の側まで歩いていった。
季山梨香は彼女に紹介した。「時枝秋、こちらは定戸市大学から来られた菊地健夫先生よ。時枝雪穂さんが紹介してくれたの。もし定戸市大学の推薦入試に合格できれば、菊地先生の下で学べるわ」
「へぇ?」時枝秋は時枝雪穂を一瞥した。
彼女が自分に先生と試験を紹介する?
太陽が西から昇るようなものだ。
時枝雪穂は慌てて説明した。「季山先生、推薦入試は明日からなんです。実は菊地先生は事前に学生を見に来られたんです。適任な生徒がいれば、試験に合格しなくても定戸市大学に入学でき、菊地先生の下で学べるんです。私が菊地先生に時枝秋を推薦したんです」
季山梨香は不思議そうに「試験を受けなくても定戸市大学に入れるの?」
前例はあるものの、非常に稀なことだ。時枝雪穂がこんな良い話を時枝秋に紹介するなんて。
以前、時枝雪穂の言葉が回りくどいと誤解していたのかもしれない。
時枝雪穂は言った。「はい、菊地先生の学部には、まだそういう枠があるんです。時枝秋は忙しいでしょうから、先に菊地先生と話し合ってみては?推薦入試を受けなくても済みますし」
この言葉は時枝秋が忙しいと言いながらも、その裏には、時枝秋なんかが推薦入試に合格できるはずがない、という意味も含まれていた。
季山梨香は今度こそ聞き間違いではないと確信した。
彼女は尋ねた。「菊地先生はどちらの学部でしょうか?」
菊地先生は顎を上げ、得意げな口調で「体育学部です」と答えた。
季山梨香はお茶を飲んでいなかったのに、思わず噴き出しそうになった。
時枝秋も長い睫毛を上げ、物憂げに今日来た二人を見た。体育学部?
季山梨香は反論する気も失せた。確かに定戸市大学は非常に優れた国内トップクラスの大学だが、体育学部は昔から平凡で、無名だった。学内でも最下位の評価で、他大学の体育学部と比べても劣悪だった。
大木に枯れ枝あり、というのは定戸市大学と体育学部の関係を表している。
それはまだいい。どうせ有名無名は季山梨香と時枝秋には関係ない。