第268章 偽物を持って

まして、時枝秋が話したくても、もはやその機会はないでしょう。これは二つの会社間の問題に関わることで、時枝秋一人の意見では決められないのです。

それに、芸能界でも証拠が必要です。時枝雪穂は小林凌のために、まだ正式な婚約はしておらず、普段は名家としての付き合いだけで、パパラッチでさえ何も撮れません。時枝秋が噂を広めても、小林凌のファンに非難されるだけでしょう。

時枝雪穂は優しく言いました:「秋、佳澄はそういう意味じゃないわ、気にしないで。でも、小林お兄さんはあなたが見ていた服の生地が好きじゃないから、そんなお金を使わないほうがいいわ。」

小林佳澄だけでなく、彼女も時枝秋がまだ小林凌に未練があると確信していました。

この前、時枝秋があるイケメン俳優と一緒にいるのを見かけましたが、小林凌のようなトップスターと、若手イケメン俳優が比べられるはずがありません。

時枝秋がどうして完全に小林凌を諦められるでしょうか?

小林佳澄はすぐに頷きました:「そうよ、従兄は普段着る服は全部雪穂が選んでるの。この生地と素材は、全然彼に合わないわ!」

時枝秋はこの二人にうんざりして、相手にせず、「この服を取ってもらえますか。」と言いました。

小林佳澄も口を開きました:「私たちも欲しいわ!私たちにもこのセットを、190サイズで。」

「申し訳ありませんが、このデザインは一着しかございません。」店員は申し訳なさそうに言いました。

「私たちが先に来たんだから、当然私たちのものよ。」小林佳澄は言いました。「私たちはここに30分以上いるでしょう?」

店員は彼女たちを見ました。確かに、時枝雪穂と小林佳澄は30分以上前から来ていて、他にもたくさんの服を選んでいました。

一方、時枝秋は後から来たのです。

時枝雪穂と小林佳澄はこの店の常連で、すでにVIP客で、店員たちが大切にしている顧客です。

対して時枝秋は、身につけている服にはブランドらしきものは見当たらず、ただ体型が良いだけで、購買力のない人に見えました。

時枝秋は特別な舞台活動以外は、普段メイクもせず、余計な装飾品もなく、いつもTシャツかシャツに、最もシンプルなデザインのジーンズを合わせているだけで、彼女を知る人は彼女が芸能人だと分かりますが、知らない人は、彼女の服装があまりにもシンプルで、購買力がないと思うでしょう。