第301章 大物が不満げ

「そうですね、ははははは」萩原衡は返事をして、もう余計な一言も言う勇気がなかった。

他の人たちも不安と警戒を保ち、時枝秋が突然何かしでかすのを恐れていた。

無理もない。時枝秋は以前、浅湾別荘から逃げ出すために様々な策を練り、この一行は真っ先の被害者だったのだから。

「友達同士、これからはもっと集まるべきですね。そうそう、今夜はお酒を持ってきましたから、みんなで味わいましょう」時枝秋の今夜の装いも話し方も、まるで別人のようだった。

本間拓海は黙り込み、荒木俊は驚きのあまり何も言えなかった。

美人お姉さんに抗えない青木空だけが「いいですね、いいですね!」と相づちを打った。

萩原衡は懲りない天然で、すぐに「本当ですか?どんなお酒ですか?じゃあ、しっかり味わわないと!でも……」と同調した。

「でも、なんだ?」藤原修の鋭い視線が飛んできた。

「なんでもないです、なんでもない」

萩原衡は口まで出かかった「でも、このお酒に何が仕込まれているか分からない」という言葉を飲み込んだ。

すぐに、ウェイターが時枝秋が持ってきたワインをテーブルに運んできた。

きっちりと並べられた4本の赤ワインは、一見何の変哲もないように見えた。

しかし、よく見ると荒木俊は気づいた:「73年のジョルジュ・ルーミエのカベルネ・ソーヴィニヨン?」

彼はすぐに1本を手に取り、ラベルを詳しく見始めた。萩原衡がそれを奪い取り、途端に慎重な動きになり、まるで一触れば壊れそうな豆腐を抱えているかのようだった:「本当に73年のカベルネ・ソーヴィニヨンだ!」

萩原衡は酒を命のように愛し、特に赤ワインを好み、生涯をかけて世界中の名酒を飲むことを志していた。荒木俊はワインの収集が趣味だった。

しかし、二人は数多くのワインを見てきたが、噂の73年カベルネ・ソーヴィニヨンには一度も出会ったことがなかった!

萩原衡はかつて誓いを立てた。この人生で73年カベルネ・ソーヴィニヨンを飲めないなら、ずっと生き続けなければならない、そうでなければ死んでも死に切れないと!

その時、荒木俊は彼の肩を叩いて言った:「じゃあ、先に死んでろよ。俺が手に入れたら、お前の分も供えてやるから」

それで萩原衡から激しい殴打を食らった。