やはり堀口正章は名が知れ渡っており、誰もが彼のところは予約が取れないことを知っていた。
しかも、海外では、彼の名声はS国よりも高く、王室でさえ彼のところで順番待ちをしなければならないと聞いている。
紺野広幸が携帯を片付けると、アシスタントが近づいてきて、顔に困惑の色を浮かべた。「紺野先生、GUの衣装が持ってこられませんでした。」
「どうしたの?GUが今回の衣装を提供することになっていたはずだけど?」
GUは世界的ブランドとは言えないが、現在国内では一流ブランドと言えるものの、国際的な展開にはまだ少し水準が足りない。
今回、紺野広幸のチームは真夏の夜の音楽祭で彼らの衣装を着用して出演することを、長い交渉の末にようやく獲得できた。
GUも紺野広幸に衣装を貸すことに同意していた。
ただの貸し出しで、オーダーメイドではない。
貸し出しということ自体が、ブランド側がそのアーティストに期待はしているものの、特別重視はしていないということを意味する。そうでなければ、オーダーメイドを提供するはずだ。
「GUの方で、小林凌が彼らのチーフデザイナーに連絡を取り、今回はそのデザイナーのオーダーメイドを着用することになったそうです。だから...」
意味は明白だった。
小林凌が急遽GUのチーフデザイナーと協力関係を結んだため、その夜にGUが紺野広幸にブランドの衣装を貸し出すことは不可能になった。
同じ会場で、同性のアーティストに提供される衣装は一着のみ。
紺野広幸と比べれば、どちらを選ぶかは馬鹿でもわかる。
小林凌が自らGUに接触してきたのだから、GUには断る理由がない。
「わかった。」紺野広幸はこの結果に驚きはしなかった。
「小林凌は自分でBrianを断って人を怒らせておいて、今になって他のブランドから衣装を借りるのも間に合わないから、あなたの分を奪うなんて、本当に厚かましいです。」アシスタントは本当に腹が立って、GUの契約精神のなさにも怒りを感じていた。大物が現れたとたん、約束していたことを忘れてしまうなんて。
紺野広幸は笑って言った。「もういいよ。君だってエンターテインメント業界に入ったばかりじゃないだろう。この業界はこういう現実的なもので、人気で物事が決まるんだ。気にしないでくれ。」