第345章 叫んでもいいですか?

園田保夫も立ち上がって尋ねた。「誰が届けてくれたの?」

「時枝秋よ」と藤原千華は答えた。

「時枝秋?」園田保夫は目を凝らして見つめた。

藤原千華と同様に、彼も素晴らしいピアノを数多く見てきた。どんな高級で上等なものでも、見て触れてきた。

ピアノを弾くというのはもともとお金のかかる趣味だ。まして彼らのような様々な大会に出場してきた者なら尚更だ。

時枝秋が贈ったと聞いて、園田保夫はこれがごく普通のピアノなのだろうと思った。

「なぜ彼女があなたにピアノを贈るの?」と園田保夫は尋ねた。

「前に少し誤解があってね」と藤原千華は率直に答えた。「送らないでって言ったんだけど、聞く耳持たなかったわ」

彼女は執事に言った。「開けて確認してください。問題なければ後で署名するわ」

そう言うと、園田保夫と一緒にお茶を飲み続けた。

園田保夫は頷いて、茶碗を手に取った。

時枝秋の所属する尾張家は、園田保夫とも縁があった。今の時枝秋はお金に困っていないだろうから、最高級のピアノを贈ってくるかもしれない。しかし、どんなに最高級でもたかが知れている。

ピアニストには各々お気に入りのブランドがあり、専属のピアノデザイナーまでいて、市場の量産品を直接買うことは稀だ。

たとえ贈られても、藤原千華が常用することはないだろう。

藤原千華も同じように考えていた。しかし時枝秋からの贈り物なので、他人に譲る道理もない。幸い藤原家は広いので、適当な場所に置いておけばいい。

そう考えていると、執事が戻ってきて言った。「お嬢様、やはりご自身で確認されたほうがよろしいかと。このピアノは...私には判断できかねます」

藤原千華は笑いながら立ち上がった。「どうしてわからないの?」

藤原家の執事もピアノに詳しく、専門学校を卒業している。以前、藤原千華が小さい頃は練習に付き添っていたほどだ。

彼女は笑いながら目の前のピアノを見て、思わず立ち尽くした。

「保夫さん、見てください!」藤原千華は園田保夫を呼んだ。

園田保夫はゆっくりと茶碗を置き、立ち上がってこちらを見た。

先ほどまでピアノは丁寧に梱包されていたので、中身は見えなかった。

今は全て開梱され、中身が一目瞭然となった。