時枝宝子は国内のピアノ界で一定の地位を持っていた。世界的な大会で優勝したことはないものの、国内では何度も優勝を果たし、知名度も高かった。
数年前にピアノ協会に加入してからは、その人気は前例のないほど高まっていた。
時枝家全体が彼女を頼りにしていた。
彼女には子供がなく、子供を持つ気もなかったため、時枝家の子供たちにとても関心を持っていた。
以前は時枝秋を教えることも考えていたが、時枝秋が公の場で彼女のピアノは普通だと言ったことがあった。
子供の無邪気な発言だったので、気にする必要はなかったのだが。
しかしその後、彼女も気にするようになり、時枝秋のことは放っておくことにした。時枝雪穂が戻ってくると、その素直で分別のある性格を見抜き、すぐに時枝雪穂を弟子として受け入れた。