「はい」時枝秋は答えた。
黄瀬覚は指で彼女を指しながら言った。「約束だよ」
葉山彩未は、この黄瀬監督の様子から、まるで子供がお菓子をもらったような興奮した表情を見て取った。
葉山彩未が最初に入室し、一番目の番号札を受け取ったため、黄瀬覚は彼女にすぐにオーディションを始めさせた。
葉山彩未の演技は今では大きく進歩しており、シーンを引いた後、少し準備をして、要求通りに演技を披露した。
黄瀬覚のプロの目から見ると、彼女の演技は一流とは言い難いが、自然で説得力があるという長所があり、それは非常に重要なポイントだった。
撮影チームに加入後、少し調整すれば、役をこなせるはずだ。
彼の心の中では、すでに時枝秋の友人を第一候補として考えていた。
後で驚くほど素晴らしい俳優が現れない限り、葉山彩未に決定だった。
次に入ってきたのは黄瀬桂子だった。
先ほど陸田関東監督が直接時枝秋と葉山彩未を中に連れて行った時から、彼女の表情には不安が浮かんでいた。
やっと表情を整えて入室したが、黄瀬監督が時枝秋と小声で話しているのを見て、彼女の心は一気に冷え込んだ。
オーディションを終えて出てきた後、彼女は付き添いの車に座り、大きく息を吐いた。
マネージャーも彼女の後ろについて、表情は良くなかった。
しかし、彼女たちはまだ結果を待たなければならず、その結果が受け入れがたいものになるかもしれないと分かっていても。
どれくらい待ったか分からないが、全員のオーディションが終わり、陸田関東監督が彼女たちの方に歩いてきた。
「黄瀬さん、オーディションの時の調子があまり良くなかったですね」陸田関東監督は最初に彼女の資料を黄瀬覚の前に置いていた。
彼女の番号札も前の方だった。
理論的には、彼女は大きなアドバンテージを持っていたはずだ。
演技にも問題はなかった。
そうでなければ、陸田関東監督も一次選考の時に契約を約束し、準備までしていなかっただろう。
「黄瀬さん、この契約は残念ながらお渡しできません」陸田関東監督は言った。
今日少しでも普通の演技ができていれば、こんな結果にはならなかっただろう。
しかし調子が悪かったため、陸田関東監督にもどうすることもできなかった。
黄瀬桂子はまだ何も言わなかった。