時枝秋は木村裕貴を脇に引き寄せて尋ねた。「山がなぜ閉鎖されているの?」
もしかして今世では、山に誰もいないのだろうか?
もし誰もいなければ、彼女は気にする必要はない。
結局のところ、地震のような事前に予測できないことについて、自分が出て行って他の人に「ここで地震が起きる、みんな早く避難して」と言ったとしても。
他人は自分を精神病扱いするか、社会に危害を与える危険人物として扱うだろう。
事後に、たとえ自分の言ったことが正しかったと証明されたとしても、どうやって他人に自分の予測が当たった理由を説明すればいいのだろうか?
夢で見たと言うべきか?
「いや、ある撮影クルーがここで撮影していると聞いたよ。しかもそのクルーはs国のもので、この山を一定期間借り切っているらしい。でも詳しいことは聞いていないんだ」
主に木村裕貴には関係のないことだったので、彼が詳しく聞いても無駄だった。
時枝秋は木村裕貴に言い終わると、彼に小声で言った。「ちょっと個人的な用事で出かけなきゃならないの。配信のほうをお願いできる?」
木村裕貴は彼女の性格を知っていて、無茶はしないだろうと思ったが、ここは異国の地だ。彼は言った。「一緒に行くよ」
「大丈夫。ここをうまく対応してくれればいいから」時枝秋は言って、上着を一枚取って外に向かった。
木村裕貴はカメラに向かって挨拶し、笑いながら言った。「時枝秋は友人に会うために少し出かけるようです。これはプライベートな用事なので、撮影は控えさせていただきます」
撮影クルーは理解を示した。
コメント欄では皆が推測し始めた。「まさか、他の人はみんなあんなに真面目に練習しているのに、時枝秋は練習もせずに出かけるの?」
「マネージャーさん、私たちの女の子を説得してよ」
「そうだよ、彼女は何をしに行くの?」
「彼女が彼氏に会いに行くかもしれないと思うと、心が砕けそう」
「心が砕ける……」
「切ない……」
木村裕貴はしばらく何も言わなかった。時枝秋が恋愛していることは紛れもない事実で、外部もとっくに知っていた。
彼が多くを語れば語るほど間違いも増えるので、皆に微笑みを返すだけにした。
ファンたちはまた心を刺された。
「はぁ、自分たちの女の子だから、どうしようもないよね、可愛がるしかない」
「まあまあ、我慢しよう」