しかも彼ら自身も考えていた、時枝秋をトリの位置に置いた方がいいのではないかと。
時枝秋は時枝雪穂のいる方向を見て、「彼女は確かなの?」と尋ねた。
「調整するよう努めます…」
「調整する必要はない、このままでいい」時枝秋は淡々と言い、唇の端に嘲笑の色を浮かべた。
実際、順番は重要ではないが、時枝雪穂のやり方は、ハエが人を噛まなくても、人を不快にさせるようなものだった。
「彼女が選んだ場所を見せて」
「ここです。ある島の別荘です」
「向井社長の家だね」時枝秋は一目見ただけでわかった。
木村裕貴は不思議そうに「なぜ時枝家で撮影しないんだろう?時枝家の別荘も素晴らしいのに。向井社長のところは、やはり人が多くて口うるさいだろう」
「時枝家は今、千疮百孔で、撮影できないんだ」時枝秋は淡々と言った。
木村裕貴はそれを知らなかった。彼が知っているのは、新興の名家である時枝家が、ある時期非常に栄えていたということだけだった。
まさかそこまで状況が悪化しているとは。
時枝秋は彼よりも百倍も状況を理解していた。
時枝家の現状は、かなり憂慮すべき状態だった。
時枝お爺さんは以前は事業に関わらず、今は体調が良くなったとはいえ、まだ療養院にいる。
時枝清志のビジネスは以前と比べて急落している…結局のところ、8年前までさかのぼると、時枝家の多くの事業は、実際には尾張家が橋渡しをして支えていたものだった。
尾張家は以前から控えめで、義理堅く、表立って言うことはなかったが、存在しないというわけではなかった。
尾張家の投資が引き上げられると、状況は非常に厳しくなった。
以前、時枝雪穂は外で堀口景介の妹という立場を利用して、何とか数件の契約を結んだ。
しかし相手は一度取引した後、堀口景介に会うこともできないと知ると、もはや時枝家との協力に興味を示さなくなった。
さらに小林家も時枝雪穂との関係を解消したため、時枝家は今や外見は立派でも中身は空っぽになっていた。
そうでなければ、時枝雪穂も向井社長に頭を下げることはなかっただろう。
しかし、このような状況に陥ったのも、時枝雪穂自身の責任だった。
「彼女が言うその日に撮影するなら、そうしよう」時枝秋は言い終えると撮影に向かった。