第468章 偽物

しかも彼ら自身も考えていた、時枝秋をトリの位置に置いた方がいいのではないかと。

時枝秋は時枝雪穂のいる方向を見て、「彼女は確かなの?」と尋ねた。

「調整するよう努めます…」

「調整する必要はない、このままでいい」時枝秋は淡々と言い、唇の端に嘲笑の色を浮かべた。

実際、順番は重要ではないが、時枝雪穂のやり方は、ハエが人を噛まなくても、人を不快にさせるようなものだった。

「彼女が選んだ場所を見せて」

「ここです。ある島の別荘です」

「向井社長の家だね」時枝秋は一目見ただけでわかった。

木村裕貴は不思議そうに「なぜ時枝家で撮影しないんだろう?時枝家の別荘も素晴らしいのに。向井社長のところは、やはり人が多くて口うるさいだろう」

「時枝家は今、千疮百孔で、撮影できないんだ」時枝秋は淡々と言った。

木村裕貴はそれを知らなかった。彼が知っているのは、新興の名家である時枝家が、ある時期非常に栄えていたということだけだった。

まさかそこまで状況が悪化しているとは。

時枝秋は彼よりも百倍も状況を理解していた。

時枝家の現状は、かなり憂慮すべき状態だった。

時枝お爺さんは以前は事業に関わらず、今は体調が良くなったとはいえ、まだ療養院にいる。

時枝清志のビジネスは以前と比べて急落している…結局のところ、8年前までさかのぼると、時枝家の多くの事業は、実際には尾張家が橋渡しをして支えていたものだった。

尾張家は以前から控えめで、義理堅く、表立って言うことはなかったが、存在しないというわけではなかった。

尾張家の投資が引き上げられると、状況は非常に厳しくなった。

以前、時枝雪穂は外で堀口景介の妹という立場を利用して、何とか数件の契約を結んだ。

しかし相手は一度取引した後、堀口景介に会うこともできないと知ると、もはや時枝家との協力に興味を示さなくなった。

さらに小林家も時枝雪穂との関係を解消したため、時枝家は今や外見は立派でも中身は空っぽになっていた。

そうでなければ、時枝雪穂も向井社長に頭を下げることはなかっただろう。

しかし、このような状況に陥ったのも、時枝雪穂自身の責任だった。

「彼女が言うその日に撮影するなら、そうしよう」時枝秋は言い終えると撮影に向かった。