「実は私の薬は、彼女のような怪我も治せるんです。でも、彼女には与えたくないし、与えるつもりもありません」と時枝秋は小声で言った。
藤原修は身をかがめて、彼女の耳元に近づいた。「それはあなたの自由だ。ふさわしくない人もいる」
木村裕貴も隣で黙って頷き、藤原修の言葉に同意した。時枝雪穂はふさわしくないと。
時枝秋は笑顔を見せ、藤原修は小声で言った。「一緒に映画を見に行かないか?」
「どの回?」
時枝秋はすぐに振り返り、藤原修の顔に浮かぶ笑顔を見て、自分の初めての映画『大宋の栄光』が公開されたことを思い出した。
彼女はすぐに言った。「すぐに着替えます」
……
『大宋の栄光』のストーリーは恋愛に焦点を当てたものではなく、鉄と馬と剣の世界を描いた作品だった。
映画館での最後のシーン、時枝秋が演じる堀口晶が長槍を掲げ、広大な草原に向かって「大宋の民のために!」と力強く叫ぶと、観客からゆっくりと拍手が起こり始めた。