ケンピンスキーホテルの玄関前に赤いタクシーが停まり、二十代前半くらいの女性が降りてきた。シンプルな白の綿のワンピース姿で、ゆるやかなウェーブのかかった長い髪を下ろしている。派手でも豪華でもないが、シンプルながら目を惹く佇まいで、薄化粧の顔に白いハンドバッグを手に取り、質素な黒のハイヒールを合わせた姿は、まるで仙女のような雰囲気を醸し出した。
彼女は絶世の美人というほどではないが、整った顔立ちのおかげで、印象深い容姿をしており、春風のような心地よさを感じさせる。この世界には、こういう女性もいるものだ。派手さはないが人の心を魅了するような女性が。青木岑はまさにそんな、独特な魅力で人々の心を捉える稀有な女性の一人だ。
「あら、青木岑、来たわね。早く2階の牡丹の間に行って。みんなそこで待ってるわよ。あなたを見かけたら、きっとみんな喜ぶわ」ロビーで受付を担当していたクラスメートが親切に案内してくれた。青木岑は微笑みながら頷き、ゆっくりと2階へ向かった。なぜか、心の中に不安が湧き始めていた。この感覚は、久しぶりだ……
実は高校の同窓会には、ほとんど参加していなかった。それは青木岑が群れを好まないからでも、プライドが高いからでもなく、ただあの3年間の高校生活に、一生忘れられない人がいたからだった。だから、彼女はいつも無意識のうちにそれを避けていた。
今回の招待を受けたのは、担任だった片山先生が直接電話をくれたからだった。片山先生は60歳を過ぎ、すでに退職しており、娘と一緒にニュージーランドに移住したと聞いていた。せっかく帰国して同窓会を開くというので、青木岑は断る理由が見つからなかった。彼女は決して先生の目から見て優等生ではなかったが、片山先生への思いは他の生徒に劣らなかった。
それに……あの人は7年前から姿を消したのだから、同窓会には来ないはずよね?
青木岑は心の中でそう自分を慰めながら、あの忌々しい不安を和らげようとした。
部屋のドアを開けると、すでに20人以上が集まっている。扉を開ける音を聞き、全員が入口の方を振り向いた。青木岑は少し照れくさそうに微笑んだ。
「みなさん、こんにちは。お久しぶりです」彼女から挨拶をした。
「あらまぁ、うちの美人の青木じゃない。珍しいわね、同窓会に来るなんて。太陽が西から昇ったのかしら」クラスメートだった女子が皮肉っぽく言った。
青木岑は気まずそうに笑って、何も言わなかった。そのとき、クラス委員の岡田明が立ち上がって近づいてきた。「青木さん、久しぶり。みんな会いたがってたよ。元気にしてた?」
「ええ、元気よ。委員長、片山先生はまだ?」青木岑は部屋を見回しても担任の姿が見えないので、思わず尋ねた。
「ああ、片山先生なら、さっき電話してきて、渋滞で少し遅れるって。とりあえず座って待っていて」
青木岑は頷き、静かな隅の席に座って、周りのクラスメートたちの会話に耳を傾けた。
高校卒業から何年も経ち、みんな大きく変わっていた。有名企業家になった者もいれば、公務員試験に合格した者も、海外留学した者もいた。そんな人たちと比べると、かつてIQ130の天才少女と呼ばれた青木岑の人生は、あまりにも平凡に見えた。
高校卒業後、信じがたいことに、彼女は東京の名門大学への進学を諦め、医療系の専門学校に進んだ。卒業後は県立病院で研修看護師として働き、3年契約で雇われた。
今頃の彼女は仲のいい恋人もできた。同じ病院の脳外科研修醫師で、家柄は普通だが将来性はある。青木岑は、自分の人生はこれで十分だと思っていた。大金持ちになることは望まず、ただ平穏に暮らせればそれでいいと。
そのとき、突然後ろから肩を叩かれ、青木岑は驚いて振り向いた。