その人の顔を見たら、ほっと安堵の息をついた……
「玲子、驚かせないでよ」
「あら、入り口で待ち合わせるって約束したのに、あなたが先に入っちゃったじゃない」熊谷玲子は椅子を引き寄せながら、青木岑の隣に座った。
「待つつもりだったんだけど、受付の子に会って、みんな二階で待ってるって聞いたから、先に上がってきちゃったの」青木岑は優しく微笑んだ。
熊谷玲子は、高校時代の親友で、今は民間航空会社のCAとして働いている。とても可愛らしい女の子で、青木岑の数少ない親友の一人だ。親友になった理由は、彼女が青木岑と同じように、骨の髄まで優しい性格の持ち主だからだ。
「玲子、最近の仕事は平気なの?忙しくないの?」
「忙しくないわけないでしょう。今日は星都行きの便だったんだけど、同窓会に合わせて同僚と交代してもらったの。そうそう、醫師の彼氏さんは?一緒に来なかったの?」
「今日は手術があって、抜けられないの」
「へぇ、いいじゃない、きっと立派な医者になれるわ。ところで、住活はどうだった?」
「だいたい決まりそう。三か所見て回ったけど、その中の一か所がいい感じだったから、彼の両親とも相談して、そこに決めようと思ってるの」
「もう決めちゃうの?どの辺り?家を買うのは大事だから、よく考えてから決めてね」熊谷玲子は忠告した。
「第三環状線の近くよ。バスで通勤しても20分ちょっとだから、結構便利なの」青木岑は穏やかに微笑んだ。
「第三環状線なら悪くないわね。でもそこら辺の家は、一平米で十六万円もかかるでしょ?あなたの彼氏って、結構やるわね」熊谷玲子は羨ましそうに言った。
「現金一括じゃないし。頭金だけ払って、残りは二人でゆっくり返していくつもりよ。まだ若いしね」
「じゃあ、家が決まったら、後は結婚の準備かな?」熊谷玲子は青木岑の手を取って尋ねた。
「ええ、特に問題がなければ、そうなるはずよ」青木岑は頷いた。
「岑ちゃん」
「なに?」
「このまま結婚して…本当に納得したの?」熊谷玲子は突然真剣な眼差しで尋ねた。
「ふふ、今さら納得も何も…」
「岑ちゃん、私が何を聞きたいのか分かるでしょう?本当に彼のことを忘れたの?」熊谷玲子の声は低く抑えられていたが、青木岑にははっきりと聞こえた。「彼」という言葉を聞いた時、彼女の瞳には悲しみと、捉えがたい心の痛みが浮かんだ。
「納得しようがしまいが、これが運命よ。私は受け入れたの。玲子、7年前から私は運命を受け入れたの」青木岑はそう言いながら、苦い笑みを浮かべた。
熊谷玲子が何か言いかけた時、個室のドアが開いた。全員が立ち上がり、青木岑と熊谷玲子も皆と一緒に立ち上がってドアの方を見た。そこには白髪まじりの担任の片山先生が立っていて、その隣には…まさか…
7年前に姿を消したあの男、青木岑の人生で最も大切だった人が…こんな形で現れるなんて、まるで夢のように、あまりにも突然すぎた。
青木岑は一瞬、頭が真っ白になった……