緊張

「まさか、幻覚でも見たの。あの人は……西尾聡雄さん?」個室の中から、女性の驚きの声が、みんなを衝撃から現実に引き戻した。

「西尾って……本当に西尾聡雄さんだよ」もう一人の女性が興奮した声で繰り返した。

青木岑は入り口に立つその姿を呆然と見つめていた。その人は、かつての頃よりも一層輝いていて、全身から人の目を引く光を放っているように感じる。185センチの身長、整った短髪、黒いシャツに黒いスラックス、そんなシンプルな装いなのに、彼が着ると何故かこんなにも眩しく見える。深い瞳、通った鼻筋、薄い唇、そして際立った顔立ち、青木岑は何度も夢の中で見てきた姿だった。

今、実際に会えたのに、何を言えばいいのか分からない。その瞬間、青木岑は心臓が飛び出しそうなほど激しく鼓動するのを感じた……

「ほらね、岑ちゃん。まさに噂をすれば影というやつね。まったく、この展開はドラマでも古臭いくらいね」熊谷玲子は衝撃から立ち直り、軽く青木岑の腕を突いた。

しかし青木岑は全く反応せず、彼女の視線も意識も西尾聡雄から離れることはなかった……

あの男性は、容姿は少しも変わっていない。ただ七年の月日が流れ、落ち着きと成熟さが加わっていた。それと、口元にはかすかな微笑みを浮かべている。以前の西尾聡雄はいつも冷たい表情で、こんな表情は見せなかった。彼が変わったのか?それとも時が変えたのか?

西尾聡雄は周囲を見回し、青木岑の方を見た時も特に反応を示さず、他のクラスメートと同じように扱った。それが青木岑の心に何とも言えない寂しさを感じさせた。

「久しぶりだね」西尾聡雄は周りを見渡してから、何気なく口を開いた。

「まあ、西尾様、本当に戻ってきたの?夢じゃないわよね。ここ数年間、どこに行ってたの?」大石紗枝は最前列に飛び出し、興奮した様子で尋ねた。

高校時代の大石紗枝は西尾聡雄に夢中だったのは、誰もが知っている事実だ。当時、西尾聡雄のことで青木岑と高校三年間一言も話さず、会えば敵同士のような態度を取っていた。七年経った今でも、大石紗枝は相変わらず成長していないようで、西尾聡雄本人を見るなり、まるで長い間餓えた狼が骨を見つけたかのように飛びついて、少しも慎みがなかった。

他の女子たちも周りに集まってきた。やはり西尾聡雄のような男は、見ているだけでいい気分になるから、女子の間に人気のようだ。

「ずっとアメリカで勉強していたんだ」みんなの質問に対して、西尾聡雄は淡々と答えた。

七年間だった。この丸七年間、西尾聡雄は完全に姿を消し、誰も彼の行方を知らなかった。かつての愛する人、青木岑でさえも。

この時、クラス委員の岡田明が前に出て笑いながら言った。「戻ってきてくれて何よりだ。今回はうちのクラスが一番多く揃った同窓会だ。さあ、先生、どうぞお座りください。みんなで食べながら話しましょう」

片山先生は西尾聡雄の手を借りて主席に座り、西尾聡雄は片山先生の左側に座った。岡田明が片山先生の右側に座ろうとした時、片山先生が「青木岑」と呼んだ。

「何ですか、片山先生」青木岑はすぐに立ち上がった。

「こっちで座りなさい」片山先生は手を振った。

岡田明は非常に気まずい思いをしたが、すぐに気を取り直して「早く来てよ、青木。先生も久しぶりに会えたんだから、ゆっくり話したいでしょう」と言った。

青木岑は頷いたものの、気が進まなかったが、仕方なくそこへ進んだ……

一歩進むごとに、彼女の心は震えていた。なぜなら、こうすることで、西尾聡雄にも一歩ずつ近づいていくから……

おそらく緊張しすぎたせいで、座るなり、グラスを倒してしまい、粉々に砕けてしまった。