第25章:命令

産科から院長室までは実際10分もかからない距離なのに、青木岑はぐずぐずと15分もかかってしまった。

院長の吉田信興は50歳を超えた男性で、四角い顔立ちと鋭い眼差しを持ち、古風な雰囲気の人物だった。

もちろん、第一病院で半年も経っていない研修生の看護師さんである青木岑には、院長様に会う資格などなかった。

病院の公式サイトで写真を見ることしかできなかったが、院長は若い頃、非常に優秀な整形外科の教授だったという。

何度もヨーロッパに視察に行ったことがあるらしい……

気がつけば院長室の前に到着していた。入口には金縁の眼鏡をかけた若い男性が背広姿で立っていた。

「青木岑さんですか?」男性が声をかけてきた。

「はい」

「院長がお待ちです。どうぞ中へ」

「はい」青木岑は頷き、不安を抱えながらドアをノックした。