「はい、すぐに戻ります」
第四病院を出て、バスを乗り換えて第一病院に戻った。
看護師長室
「青木さん、前回あなたが申し出た件について、院長に話をしたところ、承認が下りました。これがあなたのボーナスです」
そう言って、看護師長は茶封筒を差し出した。
青木岑は封筒を受け取り、ずっしりとした重みに少し驚いた。「看護師長、これはいくらですか?」
「四十万円です」
「こんなにも?」青木岑は驚いた。
「院長が言うには、今回は重要な案件で、上層部の方も意識を取り戻され、回復も順調とのことで、今回携わった医療スタッフ全員に報奨金を出すようにと指示がありました」
「ありがとうございます。院長にもよろしくお伝えください」
「何を言ってるの、これはあなたが当然受け取るべきものよ。それに、あなたは大きなリスクを負ったのだから」
青木岑は微笑んで何も言わなかった……
この四十万円があれば、クレジットカードの支払いも、玲子への借金も返せる。本当に良かった。
借金から解放される気分は最高だ……
「青木さん、個人的な質問をしてもいいかしら?」
「はい、どうぞ」
「実は、あなたのことは聞いていたの。高校時代は優秀な成績を収め、海外の多くの医学部から全額奨学金付きのオファーを受けていたそうね。確か高校卒業試験で697点を取ったんでしょう?その成績なら東大医学部にも入れたはずなのに、なぜ地元の医学校を選んだの?あの時の実力なら、優秀な醫師になれたはずなのに、今は実習看護師として働いているなんて」
「それは……私個人の選択です。人それぞれ違う選択をするものですから」青木岑は苦笑いを浮かべた。
「あなたが来てこの半年、私はずっと見てきました。仕事に真面目で、頭も良く、医学の原理もすぐに理解できる。このままではもったいないわ。うちの病院には毎年、海外研修の枠があって、産婦人科には一枠あるの。今年は七月から募集が始まるわ。カナダで八ヶ月間の研修ができるけど、興味はない?」
「看護師長、ありがとうございます。でも本当に結構です。その枠は他の人にお譲りください。私はただの……ごく普通の看護師さんですから」
そう言うと、青木岑は看護師長に深々と一礼し、部屋を出て行った。
看護師長は青木岑の後ろ姿を見つめながら、複雑な思いに駆られた。