第20章:ふさわしくない

この口調から、寺田徹は西尾聡雄の身分を知っていたようだ……

確かに調べるのは難しくなかった。西尾聡雄という名前は最近、経済紙やテレビでよく目にする。

青木岑は我慢強く説明した。「徹、今日彼と話し合ったの。もう二度と会わないわ。あなたとだけ一緒にいたいの。もう怒らないで、ね?」

「そんな嘘を信じると思うのか?お前と結婚するとでも?俺が狂ってるとでも?結婚した後で浮気されるのを待てというのか?」寺田徹は不機嫌そうにスーツケースを持って出て行こうとした。

「徹、落ち着いた?本気で言ってるの?」青木岑は手を伸ばして彼を止めながら再び尋ねた。

「どけ、話したくもない。辞めることだな。同じ病院にいるのは良くない。俺は醫師だから辞めるわけにはいかないが、お前みたいな看護師に未来はない。元カレのところに戻って、神様のような生活でも続けろ」

そう言って、寺田徹は青木岑の手を振り払い、ドアを開けて出て行った……

寺田徹の去っていく背中を見つめながら、青木岑の心には不思議と悲しみが全くなかった……

まるでやっと安堵したかのように。でも……なぜだろう?

彼女自身も少し呆然としていた……

しばらくして、携帯を取り出し、熊谷玲子にLINEを送った。

「玲子、何してる?」

「今帰ってきたところ。カップラーメン食べてる」

「飲みに行かない?失恋したの。悲しまないといけないのかな?」

「げほげほ……失恋?どうしたの?西尾聡雄がまた海外に行ったの?」

「もう、お姉ちゃん、今の彼氏は寺田徹よ」

「あぁ、あいつか。とっくに別れるべきだったのよ。そもそもあなたには釣り合わないわ」

「もういいから、来る?」

「もちろん。場所を決めて。すぐ行くわ」

さすが中国の親友、言えばすぐに来てくれる。二十分後、暗夜バーで熊谷玲子は約束通り現れた。

キャビンアテンダントらしい気品のある彼女は、ぴったりとした黒のワンピースを着ていて、とても魅惑的だった。

対して青木岑は、遊びに来た人には見えず、むしろウェイトレスのように見えた。

「お願いだから、遊びに来るなら少しはちゃんとした服装にしなさいよ。まるでおばあさんみたい」

「私、服そんなに持ってないの」青木岑は軽く笑った。