第40章:あの頃

青木岑は一人で市本部の入り口に立ち、風に吹かれながら途方に暮れていた。保釈に来たはずなのに、一体どういうことなのだろう?

青木岑がタクシーで帰るのは高すぎるから、バスで第一病院に直接行くべきか迷っているところで。

アウディR8が不思議なことに戻ってきた。たった5分後のことだった。

「乗れ」

「こんなに早く?彼はどこ?」

「前のホテルにいる」西尾聡雄が答えた。

青木岑は言葉を失った……西尾聡雄の仕事の効率は本当に……

「早く乗れよ」

青木岑はもう躊躇わず、ドアを開けて助手席に座った。

長い沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。「今日のこと、あなたが仕組んだの?」

西尾聡雄はハンドルを握る手が一瞬止まり、横目で彼女を見た。「俺が彼を陥れたと疑ってるのか?」

青木岑は黙ったまま……

「俺がそんなくだらないことをすると思うのか?」西尾聡雄は再び尋ねた。

青木岑はまだ黙っていたが、確かにそうだ。西尾聡雄のような性格なら、そんなファンを失うようなことはしないだろう。

でも佐藤然なら、わからない。結局、7年前からあいつは落ち着きのない奴だと思っていた。

「あなたはしないかもしれないけど、あなたの親友ならするかもしれない」

西尾聡雄は口の端を歪めた。「刑事課長が些細なことで一般市民を陥れて、売春客として逮捕して冤罪をかけると思うのか?」

「彼が今は刑事課長なの?」青木岑は少し驚いた。佐藤然がそんなに出世していたとは。

そう考えると、確かにおかしい。堂々たる刑事課長がそんなことをするはずがない。それに毎回の出動には警察官が大勢いるのに、理由もなく人を冤罪に陥れたら、噂になってしまう。賢明ではない。

最も重要なのは、青木岑が書類を記入している時に、若い警察官が注意してくれた言葉を思い出したことだ。

彼は言った。お姉さん、あなたの彼氏は常習犯ですよ。これが初めてじゃないんです。帰ったら教育した方がいいですよ。

その時、青木岑は衝撃を受けた。表面上は温厚に見える寺田徹が、実は売春の常習犯だったなんて。

演技だとしても、そこまでする必要はないだろう。それに醫師は潔癖症のはずじゃないの?

どうして風俗嬢と寝る気になれたんだろう?

青木岑は考えれば考えるほど憂鬱になり、もう話すのをやめて、窓の外の夜景を眺めることにした。