「そうね、その家族はまだ連絡してこなかったの?」
「ええ、まだよ」
「そう、でもそろそろじゃないかしら。もう私たち三家族のところには来たから、あなたの家にもすぐ来るはずよ。あの女の子が亡くなった以外では、私たち三家族の中であなたの弟さんが一番重傷だったから、きっと賠償金も私たちより多くなるでしょうね」と話す中年女の目に、青木岑は羨望の色を見た。
「この悪質な交通事故について、私はいろいろ調べました。加害者は飲酒運転で、しかも制限速度のある学内で暴走していたそうです。これは非常に悪質な行為で、賠償金と謝罪だけでは済まない問題です。刑事責任も問われる案件です。この数日で証拠を集め終えたら、私は訴訟を起こします。賠償金なんて要りません。私が求めているのは、公平な結果だけです」と言い終えると、青木岑はその場を立ち去った。
「この娘、バカなんじゃないの」中年女性は後ろで独り言を言った。
青木岑は本当にバカなのか?もちろんそんなことはない。ただ、弟の健康と引き換えに、いわゆる賠償金を受け取りたくないだけだった。
彼女が望んでいたのは、その悪質な加害者を法の裁きにかけることだった……
学内で飲酒運転して暴走し、連続事故を起こして一人死亡、三人負傷。責任も取らずに逃げ出すなんて、そんな人間の人格は最低だ。
亡くなった女の子は、彼の助手席に座っていた彼女だったという。二人は恋人同士だったとか?
今や彼女は病院で亡くなっているのに、その男は姿を見せず、ずっと代理人の弁護士が遺族と個別に話し合いを持っているだけだった。
青木岑の心には既に考えがあった。幸治が無事で良かった。もし本当に後遺症が残るようなことになっていたら、何も要らない、あの連中と徹底的に戦うつもりだった。
案の定、青木岑が仕事を終えようとしていた時、加害者の代理人弁護士から電話があり、個別に話し合いたいとのことだった。
青木岑は承諾し、約束の場所である病院近くのカフェに直接向かった。
相手は四十代くらいの弁護士で、眼鏡をかけ、面長で、黒いスーツを着て、黒い書類かばんを持っていた。
「青木さんですね?」
青木岑は頷いた……