「お母さん、法律のことはよく分からないかもしれませんが、正規の手続きを踏めば、彼らが裁判で負けても賠償金は支払われます。ただ、示談で解決するよりは金額が少なくなるだけです。通常、幸治の医療費は彼らが負担することになります。私たちは栄養費や精神的損害の賠償は求めません。法外な金額を要求して恐喝するつもりはありません。弟の健康で金儲けをしたくないんです。裁判で勝てば、最低限の賠償金は支払われるはずですから、お金のことは心配しないでください」
「姉さん、そんな複雑な説明じゃ、母さんには理解できないよ。簡単に言えば、示談なら二千万円くらいの賠償金が得られるけど、正規の手続きを踏んで裁判所が相手に制裁を加えても、六百万円程度の医療費しか支払われない。その差額が大きいってことでしょ」と原幸治が言い終えると。
青木岑は頷いた……
永田美世子は何も言わず、うつむいて小声で「うまくいくといいけど」と言った。
青木岑には分かっていた。母は良い顔はしていないものの、自分のやり方に賛成してくれているということが。
そのとき、ノックの音が……
青木岑は緊張で仕方がなかった。西尾聡雄が突然病院に来るのではないかと本当に心配だった。
もし母が西尾聡雄を見たら、その場の雰囲気は険悪になるだろう……
しかし入ってきた人物を見て、青木岑はほっと胸をなでおろした。
寺田徹だった……
「寺田兄」と原幸治が小声で呼びかけた。
寺田徹は白衣姿で、おそらく当直室から来たのだろう。
手にはフルーツバスケットを持っており、最初に青木岑を見つめ、複雑な表情を浮かべた。
その後、青木母さんに挨拶をした。「おばさん」
「何しに来たの?もう別れたんでしょう?」永田美世子は険しい表情を浮かべた。
「幸治の様子を見に来ました。回復具合も良好のようですね。早く良くなってください」寺田徹はフルーツバスケットを置きながら原幸治に言った。
「ありがとう、寺田兄」原幸治は微笑んだ。
「岑……」彼は青木岑を見つめながら言いかけ、何か言いたげな様子だった。
「はい」
「ちょっと外で話せませんか?話したいことがあるんです」