第93章:人物

「中尾弁護士、もう少し具体的に説明していただけませんか?よく分からないのですが」

青木岑は深く考えないようにした。結局のところ、数日前まで威張り散らしていた人物で、確か高橋達也の関係者で、親戚に高官がいるとか何とか言っていたはずだ。

「一昨日の夜、私のクライアントの家で事件が起きまして、汚職の疑いで汚職取締局に連行されました。そして国土交通省からも幹部が派遣され、大學の連続事故について厳重な調査を行うとのことです。もし罪状が確定すれば、私のクライアントの白石和正は5年以上10年以下の懲役刑に処せられることになります」

「ああ、それは良かったですね。天網恢恢疎にして漏らさずというやつですね」青木岑は口角を少し上げた。

因果応報は早いものだと思った……

「しかし不思議なのは、なぜこのタイミングでクライアントの家で事件が起き、国土交通省が調査に入ったのでしょうか。このケースについて、メディアはそれほど詳しく報道していなかったはずです」

「それで、あなたが言いたいことは……?」青木岑は彼の言葉の裏を察した。

「つまり、ハハ……以前は中尾が目が利かなくて申し訳ありませんでした。青木さんの後ろには大物がいらっしゃったんですね。こんなに短期間で財務省を動かし、国土交通省に人を逮捕させるような力を持っているとは。そんな権力は本当に恐ろしいものです。以前、中尾さんが失礼な発言をしたことについて、青木さんにお詫び申し上げたく、今日お電話させていただきました。もしよろしければ、お食事にご招待させていただきたいのですが」

「お食事は結構です。おっしゃりたいことは大体分かりました。被告が逮捕されたのなら、私も訴訟を起こす必要はありませんね。ただ、あなたのおっしゃる大物については、よく分からないのですが」

「あまり明確に言う必要はありません。とにかく……青木さんは本当に運が良い方です。中尾さんごときが手を出せる相手ではありませんでした。失礼な振る舞いをお許しください」

電話を切った後、青木岑の心に漠然とした予感が芽生えた……

この件について、彼女は西尾聡雄に一切話していなかったはずだ。もしかして西尾聡雄が介入したのだろうか?

そうでなければ、なぜこんなにタイミングよく、あの家族に事件が起き、加害者が国土交通省に連行されて事故の調査を受けることになったのだろう?