第100章:金持ち

「ふん、見ろよ。あの時の私があなたをどれだけ信頼していたか、あなた自身もわかっているでしょう。だから今更、何を気にして、何を恐れているの?私があなたを告発するとでも?そんな時間も必要もないわ。結局...私にとって何の得にもならないもの。徹、私たちは別れたけど、敵同士ではないわ。だって一緒に過ごした時間があったから。でも友達にもなれない。お互いを傷つけ合ったから。認めるわ、西尾聡雄が突然現れたことで、私たちの関係は壊れた。でもその後のあなたの行動にも本当に失望したわ。だから...私たちの間には、もう何の接点もないの。幻想を抱く必要もないわ。今のあなたの名声や地位なら、素敵な女性はいくらでもいるでしょう。私、青木岑一人にこだわる必要なんてないわよね?」

「そうだな」寺田徹はすぐに答えた。

「よろしい。今日のことは不問に付すわ。でも、これが最後。今すぐ出て行って、左に曲がって。お帰りになって」青木岑は厳しい口調で追い払った。

寺田徹は怪我をした額を押さえながら、しょんぼりと出口へ向かった。

突然、彼は振り返って青木岑を見つめた。

青木岑はすぐに警戒態勢に入った...

「岑、こうなった今、一つだけ本当のことを聞かせてくれ」

「愛したことなんてない」青木岑は冷たく三言を吐いた。

「わかった」寺田徹は苦笑いを浮かべて、立ち去った。

青木岑はようやく安堵の息をついた...

寺田徹が突然やって来てこんな騒ぎを起こすとは思ってもみなかった。幸い診察室に他の人がいなかったから、恥ずかしい思いをせずに済んだ。

しばらくすると、看護師さんの山田悦子が入ってきて、床に落ちたペン立てを見て驚いた声を上げた。「まあ!何があったの?私の可愛いペン立て」

「あの...ごめんなさい。さっき物を取ろうとして誤って割ってしまったの。新しいのを買って返すわ」

「うーん...」山田悦子は小さな唇を尖らせ、不満げな表情を浮かべた。

「ケンタッキーもおごるわ」看護師さんの性格をよく知る青木岑はすぐに付け加えた。

「よし、それで手を打ちましょう」山田悦子はすぐに笑顔になった。

「そういえば...先輩、最近太っ腹ですね。ケンタッキーまでおごってくれるなんて。ねえ、お金持ちになったんですか?」

「ないわよ。お金持ちになってたら、とっくに辞めてるわよ」