「いいえ、伯母さん、私たちは喧嘩なんてしていません」青木岑は心にもないことを言った。
「そう?でも何か様子がおかしいように見えるけど」寺田母さんは独り言のように言った。
「お前はいつも余計な心配をするんだから。何も問題ないって言ってるだろう。岑は分別のある子だから、徹とは絶対に喧嘩なんかしないよ」寺田父さんは笑いながら言った。
そう言われて、青木岑の心はかえって落ち着かなくなった……
食事の後、青木岑は老夫婦を第一病院の外来待合室に案内した。
その後、彼女は眼科の診察室へ向かった……
その時、寺田徹は白内障の手術を終えたところで、手術室から出てきて、少し疲れた様子だった。
「徹」
「何か用?」寺田徹は非常に冷たい態度だった。
「寺田伯父さんと伯母さんが来ています。あなたの電話が通じなくて、私に連絡してきたんです」
寺田徹はそれを聞いて、携帯を取り出した。「ああ、手術中だったから電源を切っていた。二人はどこにいる?」
「私が昼食に連れて行って、今は外来ロビーの待合室で休んでいます」
「ああ、食事代はいくらだった?今払うよ」
「いいえ、結構です。お二人は私にとても良くしてくれましたから、一度の食事くらい」
「やめておこう。僕たちは友達でもないんだから、君に迷惑をかけるわけにはいかない。一万円で足りる?」そう言って、寺田徹は財布を開き、二千円札を五枚取り出して、青木岑に投げ渡した。
「両親の面倒を見てくれてありがとう。これからは可能な限り、彼らとは接触しないでくれ。もう君は私の家族とは何の関係もない。今日、彼らにすべて説明するつもりだ」
「分かりました」青木岑は頷いた。
「徹、何かあったの?」吉田秋雪が近くから歩いてきて、白衣を着て、青木岑を見る目つきは非常に好ましくなかった。
「ああ、両親が来たんだけど、電話が通じなくて」
「彼女は……?」吉田秋雪は無遠慮に青木岑を見た。
「大學時代の同級生だよ」そう言うと、寺田徹は吉田秋雪の手を引いて立ち去った。
青木岑は一万円を手に、苦笑いを浮かべた……
食事代は四千円ほどだったのに、寺田徹は一万円もくれた。随分と気前がいいものだ。でも、もらえるものはもらっておこう。
そう考えて、青木岑は産婦人科の診察室に戻った。