「僕は松崎熹弘です。****の松、明月の明、宇宙の宇です」と彼は落ち着いて説明した。
松崎熹弘はイケメンとは言えないが、整った顔立ちで清秀な若者だった。
着ているアルマーニの白いカジュアルジャケットは最新モデルで、人差し指にはカルティエの指輪をはめていた。
こんな派手な装いは、検視官らしくは見えなかったが、人は見かけによらないものだ。
青木岑は少し躊躇してから、同じように自己紹介をした。
「私は青木岑です。武田信玄の青木、眠りの岑です」
「眠りの岑?その字を名前に使う人は珍しいですね。なぜ木綿の綿ではないんですか?」と松崎熹弘は興味深そうに尋ねた。
「それは私もよく分かりません。母が付けた名前なので」と青木岑は冷や汗をかいた。
「なるほど、青木岑か、面白い名前ですね」と松崎熹弘はコーヒーを一口すすりながら感心した。