吉田院長は青木岑を一瞥し、ゆっくりと言った。「誰があなたを解雇すると言いましたか?」
青木岑は一瞬驚いた。昨夜の行為は解雇に値しないというのだろうか?
「昨夜の件については全て聞いて、調査も済ませました。確かに規則違反の行為でしたし、正直言って、あなたの大胆さには驚かされました」吉田院長は話しながら、青木岑を鋭い目つきで見つめた。
青木岑は黙って頭を下げた。昨夜の時点で、この決断は病院側に認められないだろうと分かっていた。病院が彼女の無謀な行動を許すはずがないのだから。
「病院としてはあなたの行為を認めることはできませんが、個人的にはあなたを尊敬しています。私個人として、あなたに敬意を表します。昨夜、あなたは二つの命を救ったのですから」そう言うと、吉田院長は立ち上がり、青木岑に丁重にお辞儀をした。
青木岑は呆然とした……これはどういう状況なのか?
「院長……?」彼女は言いかけて止めた。
「焦らないで、最後まで聞いてください。先ほどの敬意表明は私個人としてのものですが、病院としてはあなたの勝手な行動を許すことはできません。規則なくして秩序なし、あなたは看護師、それも研修中の看護師として、上司の許可なく病院の手術室や手術機器を無断で使用して患者の手術を行うという越権行為をしました。これは非常に重大な問題です。そこで私たちは幹部と協議の上、決定しました……」
青木岑はここまで聞いて、少し緊張した……
「産婦人科から一時的に異動していただき、検査科に配属することに決めました」
ここまで聞いて、青木岑はほっとしたような様子を見せた。院長は単に部署を異動させるだけだったのだ。
とはいえ、産婦人科を離れるのは本当に寂しかった。
「この処分を受け入れますか?」
「はい、受け入れます。ですが院長、一つお願いがあります」
「どうぞ」
「山田悦子さんを解雇しないでいただけませんか?彼女は私の助手を務めただけで、越権行為はしていません」青木岑は山田悦子のために取り成した。
「あなたと一緒にいた看護師も検査科に異動になります。二人一緒の異動です。そうしないと産婦人科への影響が良くありませんし、患者の家族が騒ぎ出した時の説明も難しくなります」
「それなら安心です」山田悦子と一緒に検査科に異動できると聞いて、青木岑の心は随分と楽になった。