「私は……確か虹の橋のあたりにいるの」熊谷玲子の声は歯切れが悪く、死ぬほど辛いだけでなく、酔っ払っているのが分かった。だから発音もはっきりしていなかった。
「そこで動かないで、すぐに行くから」青木岑は電話を切り、さっと立ち上がって、リビングのコートラックから上着を取った。
「どうしたの?」西尾聡雄は彼女の慌てた様子を見た。
「玲子が何かおかしいみたい。見に行ってくる」
「送っていくよ」
「いいわ……」青木岑は西尾聡雄も仕事で疲れているだろうから、自分でタクシーを拾えばいいと思った。
しかし言葉が終わらないうちに、西尾聡雄はすでに上着を着て車のキーを持って出ていた。
その行動の速さといったら、誰にも負けないほどだった……
夜は車が少なく、西尾聡雄の運転も速かったので、15分もかからずに虹の橋に到着した。