「ちょっと出張で台北に行くんだけど、明日の夜の便なんだ。一緒に行かない?」
「私?いいわ、仕事があるから」
「休暇を取ればいいじゃない。二、三日で戻るよ」
「行かないわ。気分じゃないし、どこに行っても楽しめないと思う」青木岑は首を振り、空気を読まない行動は控えることにした。
病院で問題が起きたばかりなのに、自分が休暇を取って出かけてしまったら、あの人たちが産婦人科で騒ぎを起こしたり、山田悦子に迷惑をかけたりしたらどうするの?
他人に面倒な後始末を残すわけにはいかない。
「そうか」青木岑が気が進まない様子を見て、西尾聡雄も無理強いはしなかった。
腕時計を見ると、もうすぐ8時だった。
「お腹すいてない?何か食べる?」
青木岑は首を振った……
「病院で何かあったの?」青木岑の落ち込んだ様子に気づいて、西尾聡雄は思わず尋ねた。
「ううん、たぶん科が変わったばかりで慣れてないだけよ」
青木岑は病院で起きたことを西尾聡雄に話さなかった。彼に余計な心配をかけたくなかったからだ。
彼はGKで毎日十分忙しいのだから。
「わかった。早く寝なよ。僕は書斎で資料を整理してくる」
「うん」
青木岑は二階に上がってシャワーを浴び、すぐにベッドに横たわった……
突然、携帯が鳴り出した……
見知らぬ番号からの着信だった。しばらく鳴り続けた後、青木岑はようやく電話に出た。
「もしもし」
「青木岑さんですか?」向こうから聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「はい、そうですが。どちら様でしょうか?」
「松崎熹弘です」
「松崎熹弘?」青木岑は一瞬誰だか思い出せなかった。
「この前お見合いした検視官です」と彼は付け加えた。
「ああ、あなたですか」青木岑はようやくこの困った男性を思い出した。
「今何してるの?」松崎熹弘が唐突に尋ねた。
「寝ようとしてたところです」
「まだ早いじゃないですか?食事でもご一緒しようと思ってたんですが」松崎熹弘は少し落胆した様子だった。
「結構です。ご親切にありがとうございます」
「じゃあ……LINEのIDを教えてもらえませんか?」松崎熹弘は更に尋ねた。
「LINEはあまり使わないんです」青木岑は再び婉曲に断った。
「そうですか。じゃあ、また機会があればお誘いさせていただきます」