「怖がらないで、私に悪意はないわ。神谷香織とは違うの」
青木岑が心配するのを恐れてか、小林紅はそう付け加えて説明した。
「分かりました。どこで会いましょうか?」
「こうしましょう。車を迎えに行かせます」小林紅は慎重で、場所を直接言わず、運転手に青木岑のいる場所まで迎えに行かせた。
青木岑が待つこと10分もしないうちに、黒いベンツが彼女の前にゆっくりと停車した。
その後、開発区の高級女性会員制クラブに連れて行かれた。
青木岑は頭を上げて一瞥した。このクラブについての噂を少し知っていた。裕福な奥様たちの集まる場所だと言われていた。
一般人は全く入る資格がなく、以前から青木家の大奥様の所有する施設だと噂されていたが、今日見る限り、本当にそうだったようだ。
小林紅は青木重徳の養母なので、青木岑は特に慎重になっていた。
彼女の意識の中では、この母子は手ごわいと常に感じていた。それに比べると、策略家の神谷香織や青木婉子たちの方がずっと対処しやすかった。
エレベーターで8階に上がり、最も奥の部屋で、青木岑は小林紅と対面した。
五十を過ぎているが、とても手入れが行き届いていて、肌にハリがあり、深紅のチャイナドレスを着て、手にはまばゆいピンクダイヤモンドをつけていた。
噂によると、当時小林紅と青木源人は政略結婚だったという。この数年、青木源人は外で噂が絶えず、私生児も次々と生まれた。
しかし結局、この正妻とは離婚しなかった。
それでも神谷香織がこの家に入れたのは、本当に目を見張るものがあった。
「青木岑さん、いらっしゃい。どうぞお座りください」小林紅は優雅に口を開き、顔には淡い微笑みを浮かべているだけだった。
青木岑は彼女の笑顔から敵意なのか善意なのか判断できなかった。この女はあまりにも深く隠していたからだ。
「はい」青木岑は警戒心いっぱいで、慎重に着席した。
「何か飲み物はいかがですか?」小林紅が尋ねた。
「お水で結構です」
「あなたって本当に素朴なのね」小林紅は少し笑って、手を振ると、すぐにスタッフがお水を持ってきて、青木岑の前に置いた。
しかし青木岑には飲む気はなかった……
お水を頼んだのは小林紅への敬意からだが、飲むか飲まないかは青木岑自身の問題だった。