「もういいわ。ここに住むのにも慣れたし、新しい家に引っ越す気もないの。近所の人たちともすっかり顔なじみになったし。あの伯母さんたちは口は悪いけど、心はいい人たちよ。原伯父がいなくなってからの何年間も、私たち母子三人をずいぶん助けてくれたわ。ここで暮らすのは悪くないと思うの。これからあなたと幸治が結婚して、帰ってきたければ時々帰ってきてくれればいいし、帰ってこなくても私は寂しくないわ」
永田美世子は達観しているようだった……
「お母さん……ごめんなさい」青木岑は再び申し訳なさそうに頭を下げた。
「もういいの。実は、これもあなたのせいじゃないわ。この前お寺にお参りに行ったとき、高僧様の説法を聞いたの。私は教養がないから難しいことは分からないけど、人生には因果応報があるということだけは分かったわ。原伯父の死も運命だったのかもしれない。あの時あなたをかばわなくても、いつか別の災難があったかもしれないわ」