第168章:心の結び目

「もういいわ。ここに住むのにも慣れたし、新しい家に引っ越す気もないの。近所の人たちともすっかり顔なじみになったし。あの伯母さんたちは口は悪いけど、心はいい人たちよ。原伯父がいなくなってからの何年間も、私たち母子三人をずいぶん助けてくれたわ。ここで暮らすのは悪くないと思うの。これからあなたと幸治が結婚して、帰ってきたければ時々帰ってきてくれればいいし、帰ってこなくても私は寂しくないわ」

永田美世子は達観しているようだった……

「お母さん……ごめんなさい」青木岑は再び申し訳なさそうに頭を下げた。

「もういいの。実は、これもあなたのせいじゃないわ。この前お寺にお参りに行ったとき、高僧様の説法を聞いたの。私は教養がないから難しいことは分からないけど、人生には因果応報があるということだけは分かったわ。原伯父の死も運命だったのかもしれない。あの時あなたをかばわなくても、いつか別の災難があったかもしれないわ」

「お母さん……」青木岑は、庶民である母がこんな仏教の教えを語るとは思わなかった。

しかも、かなり深く理解しているようだった……そして母娘の心の溝も随分と埋まったようだ。

少なくとも母は、もう原伯父の死について彼女を恨むことはないだろう。それは青木岑にとって嬉しいことで、心が軽くなったように感じた。

「あなたの仕事は大したことないかもしれないけど、自分の生活には困らない給料はもらえているでしょう。これからは幸治にお金をあげる必要もないわ。私もこの何年かで貯金ができたし、幸治もあと数年で卒業するから、私たち二人で彼の結婚の面倒は見られるわ」

「お母さん、安心して。幸治が結婚して家を買うときは、私が手伝うから」

「できる範囲で手伝えばいいのよ。男の子なんだから、自分でも頑張らないと。私たちの家庭の事情も分かっているでしょう」

「大丈夫よ、お母さん。幸治は分別があるから、無駄遣いなんかしないわ」

原伯父が亡くなってから、青木岑はこんなに穏やかに母と家族の話をするのは久しぶりだった。

懐かしい感動を覚えた……

夜になって、幸治は興奮して眠れず、庭のブランコの下で青木岑とおしゃべりをしていた。

そのとき、突然LINEが来た……

青木岑は少し慌てて携帯を手に取り、チラッと見た。

西尾聡雄からだった……

「どこにいる?」と西尾は尋ねた。