第183章:酔態

「ただ、この件以外にも、院長が残留を許可してくれても、私はもう居づらくなってしまって。でも、他の病院に移るのも気が進まなくて。吉田院長のような素晴らしい上司は珍しいですから。南地区も院長の管轄下なので、ちょっと相談してみたんです。最初は院長も反対でした。私が向こうの仕事のプレッシャーに耐えられるか心配だったみたいです。でも私が強く希望したので、最後は同意してくれました」

「そんなに自分を追い込まなくてもいいじゃないですか。先輩がこの病棟にいたくないなら、西部地域の不妊治療専門区に異動申請すればいいんじゃないですか?あそこも人手不足だって聞きましたよ」と山田悦子が提案した。

青木岑はすぐに手を振って、「私が産婦人科で働いていた時は、確かに大変だったけど、充実していたわ。毎日新しい命を迎えることができたから。西部地域に行くくらいなら死んだ方がマシよ。子供を持てない夫婦たちが病院を転々として苦しむ姿を見続けるのは耐えられない。長くいたら私も落ち込んでしまうわ。仕事環境は気分に大きく影響するもの。南部療養所はリハビリ中の患者さんばかりだから、仕事のプレッシャーもそれほどないし。それに、あそこは給料が一番高いって聞いたわ。今の月給の3倍くらいよ」

青木岑の言葉は嘘ではなかった。青木岑は今まだ正社員になっておらず、月給は四万円余りほどだった。

南部療養所では看護師の月給が12、3万円ほどあるという。考えてみれば当然で、お金持ちの世話をするのだから、給料が高くないと、そんな大変な仕事を誰がやりたがるだろうか。

「もういいわよ。先輩は給料なんて気にする人じゃないでしょう。私をごまかさないで」山田悦子は青木岑が南部に行きたがる本当の理由は分からなかったが、お金のためではないことは確かだと思った。

青木岑は微笑んで何も言わなかった。山田悦子は名残惜しそうに彼女の首に腕を回して、「先輩、私、すっごく寂しくなります。こんなに長く一緒にいたのに、行かないでほしいです」

「南部療養所の評判があまりよくないから、一緒に連れて行けないのが残念だわ」

「いやいや、私は行きませんよ。辞職してもあそこには行きたくありません」山田悦子はすぐに手を振った。

青木岑は冗談めかして、「でも若くて美人の看護師たちの多くが、お金持ちの旦那様を見つけようとあそこに行きたがってるって聞いたわよ」