第215章:健忘症

「ごほんごほん……だから、それは気のせいよ」青木岑は気まずそうに答え、うつむいたまま黙々と麺を食べ続けた。西尾聡雄の目には、かすかな失望の色が浮かんでいた……

彼は、彼女がまだ自分に対して感情を持っていることを知っていた。ただ、彼女自身がそれに向き合う勇気がなく、認めようとしないだけだった。

そして、それは7年前の出来事をまだ乗り越えられていない証でもあった。いったい、二人はいつになったら心の壁を取り除けるのだろうか?

夕食後、西尾聡雄と青木岑は一緒に家に帰った。

西尾聡雄は2階で仕事の処理をし、青木岑は1階で部屋着に着替えて掃除を始めた。

8時半になると、西尾聡雄は仕事を終えたようで、階下に降りて経済ニュースを見始めた。

一方、青木岑はタブレットを抱えてドラマを見ていた。

そのとき、彼女は何かを思い出したように言った。「そうそう、寺田徹から今日電話があったの。出なかったんだけど、その後メールも来たわ」

「寺田徹って誰?」西尾聡雄は顔を上げた。

青木岑は冷や汗を流した……

また始まった。この人は嫌いな人のことになると、選択的に記憶喪失を装うんだから。

西尾聡雄の頭の良さからすれば、人の名前を忘れるはずがない。ただ傲慢に、覚えていないふりをしているだけなのだ。

「あの、私の最悪な元カレよ」

「ああ、復縁を迫ってきたのか?」西尾聡雄は無関心そうに尋ねた。

青木岑は身震いした。「まさか!吉田秋雪と結婚するって。来月の17日だって」

「じゃあ、花嫁を奪いに行けってことか?」

「お願いだから、まじめに話を聞いてよ」西尾聡雄の的外れな返答に、青木岑は呆れ果てた。

西尾聡雄は彼女をじっと見つめながら続けた。「まじめじゃなかったら、お前はそんなに無事でここに座っていられないぞ」

この意味深な言葉に、自称純粋な青木岑もすぐに意味を理解してしまった……

「えーと……わかったわ。話題を変えましょう。ただ報告しただけで、結婚式に出る気なんてないから」

「結婚式には出るべきだ」西尾聡雄はニュースを見ながら言った。

「どうして?お祝い金も要るでしょ?私はやりたくないわ」青木岑は、寺田徹のような人間に一銭も使いたくないと思った。

「いや、必ず行く。それも派手にな」西尾聡雄は我儘に言い放った。