その時、IHクッキングヒーターからピピッと沸騰を知らせる音が聞こえ、青木岑はすぐに西尾聡雄を押しのけて気まずそうに立ち上がった。
「あ...お湯が沸いたわ。鍋を食べに行きましょう」
「ああ」
西尾聡雄は物足りない様子で、欲求不満な表情を浮かべていたが、それでも青木岑の言うことに従った。
夫婦二人で夏の終わりから秋の始めの涼しい季節に、湯気の立つ鍋を囲むのは、とても温かい気持ちになった。
その時、西尾聡雄の携帯が鳴った...
「なんだよ?」
「今仕事終わったんだけど、一杯飲みに行かない?」佐藤然は上機嫌だった。
「行かない」
「なんでだよ?」西尾聡雄がまさかの拒否に、佐藤然は不機嫌になった。
「家で食事中だから」
「ああ、奥さんと一緒なんだ。俺まだ飯食ってないんだけど、じゃあ俺も行って一緒に食べていい?」
「だめだ」西尾聡雄はきっぱりと断った。
「おいおい、人情ってものがあるだろ?考えてみろよ、お前と青木岑のことで、俺がどれだけ力になったか。青木岑の元カレが結婚するって話も、風俗かなんかで、俺が教えてお前に見せに行かせただろ。チャンスも作ってやったし、それにトラックの情報も調べてやったし、この前青木岑が患者の家族とトラブって怪我した時も、真っ先に連絡したの俺だぞ。なのに橋を渡り終えたら壊すつもりか、資本家ってのはみんなお前みたいなもんか...?」
佐藤然が矢継ぎ早に言い立て、西尾聡雄も確かに心が揺らいだ...
彼は青木岑を見て、青木岑はすぐに尋ねた。「誰?」
「佐藤然が家に来て食事したいって」
「じゃあ来てもらえばいいじゃない」
佐藤然が青木岑にお礼を言おうとした時、次の言葉を聞いた。「私も玲子を呼ぶわ」
「あ、そういえば急用を思い出した。今日はやめとくよ。また今度な」
電話を切る直前、佐藤然は西尾聡雄に一言付け加えた。「西尾、お前の奥さんとお前は本当に似合いだな。二人とも性格悪いぜ」
そう言って、電話を切った...
西尾聡雄は笑いながら携帯をテーブルに置いた...
「何笑ってるの?」青木岑は不思議そうに彼を見た。
「なんでもない」西尾聡雄は多くを語ろうとしなかった。
翌日、西尾聡雄は早朝の飛行機で出張に行くため、早めに出発した。