第273章:彼女はあなたが触れられる女ではない(10)

「サプライズ……なんてなかったわね。驚かされたのはこっちよ。何か起きたら私がどれだけ辛い思いをするか、分かってるの?」

西尾聡雄は心配そうな表情を浮かべた。先ほど彼が彼女の声にすぐ気付かなければ、ボディーガードに容赦なく追い出されていたところだった。

もし怪我でもしていたら、自分の心が引き裂かれるようなものだ。この女は分かっているのだろうか?

「私は大丈夫よ」青木岑は少し後ろめたそうに、西尾聡雄の様子を窺った。

青木岑の強がりに対する最良の対処法は、強引なキスだった……

案の定、西尾聡雄は彼女をソファーに乱暴に押し倒し、覆い被さって激しくキスを浴びせた。

最後には彼女の力が抜けてしまうまで……やっと離してくれた。

その時、外からノックの音が聞こえた。「社長、後でプレス発表会がありますので、ほどほどにお願いします」

ほどほど?西尾聡雄は顔を曇らせた。この永田さん、最近調子に乗っているな……

西尾聡雄は不機嫌そうにドアを開け、永田さんを一瞥して言った。「1時間延期する」

「社長……?」

「もう一言言えば、即刻荷物をまとめて帰宅してもらうぞ」

言い終わると、バタンとドアを閉めた。永田さんは心の中で不満を抱えながらも、聞きたかった質問を飲み込んだ。

「西尾様、これはちょっとわがまますぎじゃないですか?」青木岑は冷や汗を流しながら尋ねた。

「じゃあ、今度は君が僕にキスする番か?それとも僕が続けようか?」

「えっと……」青木岑は思った。今日はまさに虎穴に入ってしまったようだ。こんな社長がいるだろうか?仕事そっちのけで休憩室で女に手を出すなんて。なんてこった、こんな人が十大優秀企業家のトップに選ばれるなんて。

40分後……

青木岑はマスクを付けて部屋から飛び出した。うつむいて足早に歩いていたが、数人のボディーガードと秘書の永田さんの奇妙な視線を感じた。彼らは彼女を単なる押しかけファンだと思っているに違いない。

その1分後に西尾聡雄が出てきた。唇には薄く口紅の跡が……

「社長、どうぞ」永田さんは先ほどの失態を取り戻そうと、すぐにティッシュを差し出してご機嫌取りをした。

西尾聡雄は高慢に受け取り、優雅に口元を拭った……

実は妻の痕跡を消したくなかったのだが、仕方ない。これからプレス発表会があるのだから。