「大丈夫よ、ただ聞いてみただけ」
「彼女がどう思おうと、それは彼女の問題。私がどう思うかは、私の問題だ」
明らかに、笹井春奈は西尾聡雄にとって、ただの通りすがりの人に過ぎなかった……
「うん、彼女はあなたのことをとても気にかけているみたい。今日私が帰るとき、わざとエレベーターの前で待ち伏せして、いろいろ質問してきたの」
西尾聡雄は眉をしかめ、不快感を示した……
「でも何も聞き出せなかったわ。私は何も話さなかった」
「今後は会社の人たちのことは気にしなくていい」
「わかってる」青木岑はうなずいた。
翌朝、青木岑が目を覚ましたとき、遅刻しそうになっていた。
「どうして起こしてくれなかったの?」
「気持ちよさそうに寝てたから」
「もう、でも遅刻しちゃうわ」
「大丈夫、送っていく」西尾聡雄は青木岑の車が戻ってくるまでは、送り迎えをしようと決めていた。そのほうが安心だった。
「でも朝ごはんが食べられないわ」
「もう用意してある。車の中で食べられる」
「あなた...すごい」青木岑は感動して、すぐに起き上がり、手早く顔を洗い身支度を整えた。
朝食を持って西尾聡雄の車に乗り込んだ……
豆乳と油条、ちょうど良い、典型的な中華の朝食で、青木岑のお気に入りだった。
しかし青木岑は油条を手に取ると、まず自分で食べるのではなく、西尾聡雄の口元に差し出した。
西尾聡雄が一口かじり、それから青木岑も一口食べた。
二人はこうして一口ずつ交互に食べ、楽しく過ごした……
西尾聡雄の送迎のおかげで、彼女は南区に丁度良いタイミングで到着した……
「着いたわ。気をつけて行ってね」
「仕事が終わったら迎えに来る」
「うん」青木岑は微笑んで、西尾聡雄に手を振って別れを告げた。
この朝はとても気分が良かったのに、中に入ってある人を見かけた途端、青木岑は笑顔が消えた。
「なんでここにいるの?」
「岑ちゃん、僕を見かけるたびに、そのセリフを変えてくれないかな?僕のことをそんなに嫌がってるの?」青木重徳はブラウンのカジュアルウェアを着て、顔に淡い笑みを浮かべていた。
実は青木重徳はかなりハンサムで、優雅で、笑うと色っぽい目をしていた……
多くの女性が彼のことを好きで、紳士的で優雅だと言い、しかも女性の扱いが上手いと噂されていた。