第291章:そんなに怖いの、お母さん知ってる?(8)

「大丈夫よ、ただ聞いてみただけ」

「彼女がどう思おうと、それは彼女の問題。私がどう思うかは、私の問題だ」

明らかに、笹井春奈は西尾聡雄にとって、ただの通りすがりの人に過ぎなかった……

「うん、彼女はあなたのことをとても気にかけているみたい。今日私が帰るとき、わざとエレベーターの前で待ち伏せして、いろいろ質問してきたの」

西尾聡雄は眉をしかめ、不快感を示した……

「でも何も聞き出せなかったわ。私は何も話さなかった」

「今後は会社の人たちのことは気にしなくていい」

「わかってる」青木岑はうなずいた。

翌朝、青木岑が目を覚ましたとき、遅刻しそうになっていた。

「どうして起こしてくれなかったの?」

「気持ちよさそうに寝てたから」

「もう、でも遅刻しちゃうわ」

「大丈夫、送っていく」西尾聡雄は青木岑の車が戻ってくるまでは、送り迎えをしようと決めていた。そのほうが安心だった。

「でも朝ごはんが食べられないわ」

「もう用意してある。車の中で食べられる」

「あなた...すごい」青木岑は感動して、すぐに起き上がり、手早く顔を洗い身支度を整えた。

朝食を持って西尾聡雄の車に乗り込んだ……

豆乳と油条、ちょうど良い、典型的な中華の朝食で、青木岑のお気に入りだった。

しかし青木岑は油条を手に取ると、まず自分で食べるのではなく、西尾聡雄の口元に差し出した。

西尾聡雄が一口かじり、それから青木岑も一口食べた。

二人はこうして一口ずつ交互に食べ、楽しく過ごした……

西尾聡雄の送迎のおかげで、彼女は南区に丁度良いタイミングで到着した……

「着いたわ。気をつけて行ってね」

「仕事が終わったら迎えに来る」

「うん」青木岑は微笑んで、西尾聡雄に手を振って別れを告げた。

この朝はとても気分が良かったのに、中に入ってある人を見かけた途端、青木岑は笑顔が消えた。

「なんでここにいるの?」

「岑ちゃん、僕を見かけるたびに、そのセリフを変えてくれないかな?僕のことをそんなに嫌がってるの?」青木重徳はブラウンのカジュアルウェアを着て、顔に淡い笑みを浮かべていた。

実は青木重徳はかなりハンサムで、優雅で、笑うと色っぽい目をしていた……

多くの女性が彼のことを好きで、紳士的で優雅だと言い、しかも女性の扱いが上手いと噂されていた。