第290章:そんなに怖いの、お母さん知ってる?(7)

「そんな風に飲ませてくれたら、私、嬉しいわ」電話を切った後、青木岑は真剣な眼差しで西尾聡雄を見つめて言った。

途端に、西尾聡雄の頬が真っ赤に染まった……

「ここは会社だよ。それはまずいんじゃない?」

「ここは俺の会社だし、お前は俺の妻だ。何がまずいんだ?」西尾聡雄は反問した。

青木岑は再び言葉を失った……

しょうがない、西尾様の前では、いつも簡単に負けてしまうのだ。

午後のお茶の時間は、二人でイチャイチャしながら過ごした。

青木岑の唇は、キスで少し腫れていた。ようやく西尾聡雄は彼女を解放した。

オフィスを出る時、青木岑は頭を下げて急いで歩いた。誰かに気付かれないように。

しかし、エレベーターホールで思いがけず人と出くわしてしまった……

「申し訳ありません」青木岑はすぐに謝った。

「大丈夫ですよ」笹井春奈は優雅に微笑んだ。

彼女は40分近く待っていた。社長室の重要な来客を一目見るために。

しかし青木岑を見て、少し失望した……

絶世の美人というわけでもなく、セクシーでもない。特別な点は全く見当たらなかった。

服装も普通で……清楚な顔立ちと若く見える年齢以外は、特徴がなかった。

青木岑は本来仕事に行くところだったので、家を出る時は白いシャツと黒のカジュアルパンツを着ていただけだった。黒の低めヒール、とても地味な格好。笹井春奈のような美人さんの前では、確かに目立たなかった。

「あなたは…私たちのBOSSのお友達ですか?」笹井春奈は探るように尋ねた。

「あ…はい」青木岑は頷いた。

「前にお見かけしたことがないのですが、初めていらっしゃいましたか?」

「えっと…2回目だと思います」青木岑は一生懸命思い出そうとした。

「BOSSのアメリカのお友達ですか?」笹井春奈は、社長が帰国してから忙しすぎて新しい友人を作る時間はないはずだから、アメリカの同級生かもしれないと考えた。

「いいえ、私たちは長い付き合いなんです……」青木岑は正直に答えた。

「そうですか。それはいいですね。私たちのBOSSは素晴らしい人で、信頼できる友人ですから」

「あなた、社長のことをよくご存知なんですね?」青木岑は顔を上げて笹井春奈を見た。

彼女は馬鹿じゃない。目の前の女が並の人物ではないことを鋭く感じ取っていた。こんな無意味な質問を理由もなくするはずがない。