第365章:彼女は既婚者だった(7)

「わ……私にもよく分かりません。荒木社長様からご指示いただけますでしょうか」綿菓子は唇を噛みながら声を潜めて言った。

「用がないなら戻りなさい。これからうまくやっていきたいなら、こんな無駄なことに心を奪われないで、演技に専念して台本をしっかり覚えなさい。努力が何より大切だということを忘れないで。成功への近道なんてないんだから」

「荒木社長、私は実はあなたのことを……」綿菓子は諦めきれない様子で、少し前に身を乗り出した。

桑原勝に近づこうとして……

桑原勝はすぐに立ち上がり、少し離れた場所を指差して叫んだ。「マイクを持ってきて、この曲なら私が一番上手いんだ」

そう言うと、桑原勝はマイクを受け取って歌い始めた……

綿菓子は気まずそうに端に追いやられた……

そのとき、酒臭い矢野川が近寄ってきて、片手で綿菓子の肩を抱き、「お前らの社長さん、最近禁欲生活してんのか?あいつに気を使うのは無駄だぜ。俺と付き合わない?あいつよりずっと可愛がってやるよ」

「あはは……矢野坊ちゃんったら、冗談がお上手ですね」綿菓子は気まずそうに笑い、関口遥と矢野川に別れを告げて立ち去った。

「ちっ……向こうから来たのに手を出さないなんて、桑原様も随分高尚になったもんだな。あの子は整形してるけど、スタイルはいいぜ。********なぁ、一晩過ごせば気分も上がるだろうに」矢野川は首を振りながら感慨深げに言った。

「桑原様は結構プライドが高いからな。誰とでも寝るわけじゃないんだ。性格も少しひねくれてるし、お前も余計なことするなよ」関口遥は酒を飲みながら、桑原勝の歌う姿を見つめていた。

綿菓子が帰った後、桑原勝は暫く付き合っていたが、そのうち気分が乗らなくなってきた。

黒いランボー第六エレメントは桑原勝のお気に入りだった……

それは市場であまり見かけない限定車で、映画『ニード・フォー・スピード』にも登場した、とてもクールな車だった。

桑原勝の派手な性格にもよく合っていた……

黒いランボーで夜の街を疾走し、南区療養院の前で停車した。

青木岑は看護師長に昇進してから、夜勤の回数が随分減った。

時には二週間に一度、それも三日間だけというように、比較的楽になった。

そのことについて、西尾様も非常に満足していた。

青木岑が夜勤中、突然宅配便の配達員が入ってきた。