第365章:彼女は既婚者だった(7)

「わ……私にもよく分かりません。荒木社長様からご指示いただけますでしょうか」綿菓子は唇を噛みながら声を潜めて言った。

「用がないなら戻りなさい。これからうまくやっていきたいなら、こんな無駄なことに心を奪われないで、演技に専念して台本をしっかり覚えなさい。努力が何より大切だということを忘れないで。成功への近道なんてないんだから」

「荒木社長、私は実はあなたのことを……」綿菓子は諦めきれない様子で、少し前に身を乗り出した。

桑原勝に近づこうとして……

桑原勝はすぐに立ち上がり、少し離れた場所を指差して叫んだ。「マイクを持ってきて、この曲なら私が一番上手いんだ」

そう言うと、桑原勝はマイクを受け取って歌い始めた……

綿菓子は気まずそうに端に追いやられた……

そのとき、酒臭い矢野川が近寄ってきて、片手で綿菓子の肩を抱き、「お前らの社長さん、最近禁欲生活してんのか?あいつに気を使うのは無駄だぜ。俺と付き合わない?あいつよりずっと可愛がってやるよ」