「うん、彼女のことを頼むわ」電話を切ると、青木岑は軽くため息をついた。
彼女は少し怖かった。母親とどう向き合えばいいのか分からなかった。叱責や罵倒が怖いわけではなく、母親の無言の非難が怖かったのだ。
それは、どんな言葉よりも恐ろしかった……
気がつくと、青木岑は月下クラブの入り口に立っていた。前回ここに来たのは、熊谷玲子を迎えに来た時だった。
結果として大騒ぎになり……裁判沙汰にまでなった。
今回は、行き場がなくて、まるで何かに取り憑かれたかのように中に入っていった。
一階はバーで、五百平方メートル以上のフロアには、耳をつんざくような激しい音楽が鳴り響いていた。
「お嬢さん、何をお飲みになりますか?」ウェイターが丁寧に尋ねた。
「バドワイザー12本セット、お願いします」青木岑は淡々と答えた。