第431章:私のことを西尾奥さんと呼んでください(1)

「聞こえなかったなら仕方ないわ。いいことは二度は言わないから」青木岑は意図的に西尾聡雄の脇の下に顔を埋めた。

「もう一度言って、お願いだから、もう一度」

西尾聡雄は胸の中で抑えきれない興奮を感じながら、抱擁から青木岑を引き出し、彼女の清楚な顔を両手で包んだ。

まるで哀願するように……

「私ね……子供が欲しいの。私自身のルーツは曖昧だけど、将来の子供にはそうなって欲しくないの。子供には、お父さんが誰で、お母さんが誰なのかをはっきりと知ってもらいたい。私たち二人の愛情を全部注ぎたいの」

「岑……これは君と知り合って何年も経つけど、一番心に響いた言葉だよ」西尾聡雄は感動で胸がいっぱいになり、青木岑の腰をきつく抱きしめた。

「それで……?」

「だから、これからは本題に入らないとね……」西尾聡雄は意味深な口調で言った。

「どんな本題?」青木岑はすぐには理解できなかった。

西尾聡雄は器用に手を彼女の襟元に滑り込ませた……

「何するの?」青木岑は体を震わせた。

「岑、今の僕は体の具合があまり良くないから、君が上になる?」

「馬鹿……」

青木岑は、自分がこんなに真面目な話をしているのに、西尾聡雄がこんなにエッチなことを考えているとは思わなかった。

「真面目な話をしているのよ、ふざけないで」

「ふざけてないよ、君に協力しているだけさ。子供が欲しいんでしょう?だったら、頻繁に……愛し合わないといけないじゃない?」西尾聡雄は無邪気な表情を浮かべた。

青木岑:……

二人が甘い言葉を交わしている最中、ノックの音が響いた……

西尾聡雄は顔を曇らせた。醫師の回診のはずはない。彼は指示していた、醫師は毎日夕食前にだけ来るように、普段は邪魔しないでほしいと。

「どうぞ」

「社長、会社から急ぎの書類が届いていて、サインが必要なんです」永田さんは小さくなりながら入ってきた。

青木岑は即座に赤面して立ち上がり、襟元を整えた……

こんな親密な場面を邪魔されるなんて……

永田さんは自分に不運が降りかかることを予感していた……

「奥様、こんにちは」青木岑が傍を通り過ぎる時、永田さんはすぐに取り入るように笑顔で挨拶した。

「トイレに行ってきます。お話しください」青木岑は気まずそうに立ち去った。