「西尾博士がここに入院していると聞いて、様子を見に来ました」吉田院長は白衣姿で、後ろには無口な男性助手が付いていた。
「どうぞお入りください」
青木岑は吉田院長が自分と西尾聡雄との関係を知っているような気がしていた。明言はされていないものの。
吉田院長が西尾聡雄のお見舞いに入った時、青木岑は自分が同席するのは適切ではないと感じ、母の見舞いのために上の階に向かった。
最近は本当に忙しかったが、南区に代わりの人がいてくれて良かった。でなければ、こんなに長く休暇を取ることはできなかっただろう。
上の階で幸治と軽く食事を済ませた後、青木岑は産科の山田悦子たちを訪ねることにした。
そこで数日ぶりに吉田秋雪と出会った……
青木岑を見かけた彼女は嬉しそうに「青木さん」と声をかけてきた。
「どうしてここに?休暇中じゃなかった?」青木岑の記憶では、吉田秋雪は体調不良で休暇を取っていたはずだった。
「東京に行って戻ってきたところよ。赤ちゃんは大丈夫で、頭部の腫れは自然に吸収されるから赤ちゃんには影響がないって醫師に言われたの」
「それは良かったわ。これで安心できるわね」
「うん、行きましょう、私が食事に誘うわ」そう言って、吉田秋雪は青木岑の手を引いて外へ向かった。
「あ……いや、私はさっき食べたばかりなの。母が上の階に入院していて、弟と冷麺を食べたところだから、全然お腹が空いていないの」
「そう……せっかく会えたのに、ご馳走したかったのに」
「そんなに気を遣わなくていいわ。これからも機会はたくさんあるわ」
吉田秋雪の変化について、青木岑は嬉しく思っていた……
彼女は気性が荒いところはあるものの、少なくとも心は優しく、人を陥れるような悪だくみはしない人だった。
岡田麻奈美とは全く性質が違う……
「じゃあ、先にエコー検査に行ってくるわ。また後で」青木岑に挨拶をして、吉田秋雪は立ち去った。
山田悦子は信じられない様子で青木岑を見つめ、「先輩、どうなってるんですか?吉田さん、憑き物でも落ちたんですか?」
「前に私が彼女を助けてから、私に対する敵意がなくなったみたい」
「ふん、まだ良心があるってことね。あの女も……でも可哀想よね。新婚なのにこんなことになって。寺田徹って本当に人でなしよ。先輩が別れて正解でした」