「あ……ちょっと人と車がぶつかっちゃって。私は大丈夫だけど、車が少し傷ついただけだから、言わなかったの」
青木岑は言いながら、西尾聡雄の様子を恐る恐る窺っていた。嘘がバレないかと心配で……
「無事でよかった。今後は気をつけて」
「うん」青木岑は頷いて、ほっと息をついた。
「この車はもういい。安全性が低すぎる。新しいのを注文しておく」
「でも……」
「でもはダメ。受け入れるしかない」西尾聡雄は強引に彼女の拒否の言葉を遮った。
「わかったわ。ありがとう、西尾様」青木岑は彼の首に腕を回して甘えた。
遅く起きたため、二人とも朝食を取っていなかった。西尾聡雄はマイバッハで青木岑を職場まで送った。
青木岑が療養区に着くと、オフィスには既に朝食が用意されていた。
「看護師長、お待ちしてました。これは先ほど誰かが届けてくれたものです」