案の定、関口遥がゆっくりと言った。「私が思うに、あまり派手にしない方がいいよ。キャンピングカーで彼女を山頂に連れて行って、夜景を見て、キャンドルディナーを食べて、ワインを飲んで、それから睡眠薬を入れて車で一発って感じかな」
「一度関係を持ってしまえば、後は従順になるってことか?」と桑原勝が尋ねた。
「その通り」関口遥が頷いた。
「くそったれ、お前の口から良いアイデアが出るわけないだろ。自分で考えた方がマシだ」そう言って、桑原勝は立ち上がって出て行った。
「おい、来たばかりなのにもう帰るのか?」矢野川が名残惜しそうに叫んだ。
「お前らは先に飲んでろ。俺は静かに考えたい」
「マジかよ、本気なのか。こんなに真剣な様子見たの久しぶりだぜ。スターキングの年次式典でもこんなに重視してなかったのに。青木岑って本当に神様みたいな存在なんだな...」矢野川は感嘆した。
「今更気づいたのか?俺はあの女が神様みたいな存在だと前から思ってたよ。西尾聡雄と結婚して、それでも桑原勝の心をくすぐり続ける女なんて、普通の人間じゃないだろ?」
「見た目は普通だと思うけどな。せいぜい雰囲気がいい程度で、絶世の美女とは言えないよ」
「女の魅力は見た目じゃない。美貌だけじゃ長続きしない。手腕だよ」関口遥は笑った。
「つまり...青木岑は手腕が非常に優れているってことか?」
「そこまでは言ってないよ。ただ、彼女が並外れて凄い人だってことは確かだね」
関口遥も青木岑の噂は多少聞いていた。確かに彼女は異色の女性だった。
高校時代から様々な噂を呼び、西尾聡雄を夢中にさせていた。
最も不思議なのは、南区療養院で青木岑は桑原勝に対して終始冷たい態度を取っていたことだ。
それなのにこいつは惚れてしまい、しかも完全に夢中になってしまった。
もし青木岑が駆け引きをしているというなら、逃げる姿は見えても追いかける姿は見えないということだ...
何千万円もの高級車にも興味を示さず、5000万円の宝石も断り、桑原勝が何を贈ろうとしても受け取らない。生まれて初めてのことだった。
青木岑がお金を好まないというのは嘘だろう。誰だってお金は好きだ。ただ、彼女は強欲ではないだけだ。
君子は道を以て財を愛す。彼女は桑原勝の物を理由もなく受け取る気にはなれなかった...