「お嬢さん、一人なの?」男の声掛けの仕方は実に古臭かった。
「何か用?」青木岑はその男を見て、不思議に思った。
「今日は君に負けたけど、確かに凄かったよ。友達になろう。俺は平野遥だ。」
「申し訳ないけど、私は見知らぬ人とは友達にならないの。」青木岑は高飛車モードに入った。
「仲良くなれば他人じゃなくなるさ。」
「問題は、私があなたと仲良くなりたくないってことよ。」
「ふん...どうした?お嬢ちゃん、私の金を勝ち取ったら手のひら返しかい?」男は面子が保てなくなり、口調が変になってきた。
「負けを認められないあなたが、後から文句を言いに来たんでしょう?」
「俺が負けを認められない?お前、俺が誰だか知ってるのか?俺の親父が誰か知ってるのか?言えば驚くぞ...」
男の言葉が終わらないうちに、佐藤然が近づいてきた...
「どうしたんだ?」
少し離れた所にいた佐藤然と西尾聡雄はずっとこちらを見ていた。見知らぬ人が近づいてきたのを見て、西尾聡雄は落ち着かなくなった。
彼が近づこうとしたが、佐藤然に先を越された。まあ、それも良かった。佐藤然は市本部の人間だし、対応するには適任だった。
佐藤然が来るのを見て、男は一瞬戸惑い、その後愛想笑いを浮かべて言った。「おや、佐藤隊長じゃないですか?こんな所でお会いするとは。」
佐藤然は男を一瞥して、「平野遥、お前、国内で遊び足りなくて、船まで来たのか?」
「へへ、船の上なら違法じゃないでしょう?そうそう、この美女は佐藤隊長のお知り合い?」
「俺の妹だ。」
「げほげほ...申し訳ありません。目が節穴で失礼しました。はは、じゃあ先に失礼します。今度お茶でも。」
「いらない。俺からお茶に誘わせてもらうよ。」佐藤然は含みのある言い方をした。
男は尻尾を巻いて逃げ出した。市本部でお茶を飲むなんて、もちろん望むところではなかった...
「はは、あの人誰?まるで犬みたいに尻尾を巻いて逃げていったわね?」熊谷玲子は笑った。
「ある小企業の経営者さ。親父は元地方税務署の人間で、いわゆる小金持ちの二世だ。でもこいつは真っ当な商売ができなくて、ちゃんとした企業をボロボロにして破産寸前だ。よく賭博で市本部に拘留されてる常連さ。狂った賭博中毒者で、去年マカオで一晩で四万円余り負けて、帰りの航空券も買えなくなったって話だ。」