第109章:人材争奪戦(9)

青木岑の一言で、西尾聡雄の重圧に押しつぶされそうな心が、瞬く間に和らいだ……

「いい子だね。すぐに戻るから」

「うん、気をつけてね」

「分かった」

時間が切迫していても、西尾聡雄は必ず時間を作って青木岑と毎日電話をしていた。

青木岑はネットで見た言葉を思い出した。人の心にあなたがいれば、風が吹こうが雨が降ろうが、どんなに忙しくても連絡をくれる。でも、心にあなたがいなければ、忙しいという言い訳をして、連絡してこない。

西尾聡雄はいつも順調だと言っているけれど……

青木岑だって分かっている。あんな状況で、てんてこ舞いなのに、順調なはずがない。

遺族の悲痛な叫び、政府からの圧力、同業者の裏切り、競合他社の嘲笑、そして事件の首謀者たちの責任逃れと逃亡……

西尾聡雄は一人で、この途方もない混乱に立ち向かっている……

彼女は今、少し後悔していた。なぜ医学を学んだのだろう?

金融を学んでいれば、少なくとも会社で彼を手伝い、彼の負担を軽くすることができたのに。

でも今は何もできない……

西尾聡雄の無事を祈る言葉の裏に隠された重圧を見て、青木岑は胸が痛んだ。

彼らの西尾様は、いつも一人で全てを背負っている……

T市

政府高官との交渉を終えた後、西尾聡雄は次々と押し寄せる圧力に心が重くなった。

彼は片隅に行って電話をかけた。

「リック」

「何か必要か?」月下倶楽部のオーナーは基本的に寡黙な男だった。

「建物の崩壊は施工業者が手抜き工事をしたせいだ。施工業者の責任者は事故を予測して、一ヶ月前に国外に逃亡した。出入国記録を調べたら、今はアメリカのシカゴにいる」

「分かった、どうすればいいか」リックは意図を理解した。

「生きたまま捕まえてほしい。できるだけ早く」

「了解」

電話を切ると、西尾聡雄は超高層ビルの屋上に向かった……

下を見下ろすと、人々が行き交う様子が見えた……

人が高所に立つとき、眺める景色は美しいが、それだけ危険も大きい。

4人の死者は全て中年男性で、年齢は33歳から45歳の間だった。

本来なら家庭で父親や息子としての役割を果たすはずだった……

しかし彼らは、悪徳業者の手抜き工事のせいで、鉄筋コンクリートの下で無残な死を遂げた。

人の本性は善だと言うけれど、いつから人の心はここまで腐り果てたのだろう。