青木岑の一言で、西尾聡雄の重圧に押しつぶされそうな心が、瞬く間に和らいだ……
「いい子だね。すぐに戻るから」
「うん、気をつけてね」
「分かった」
時間が切迫していても、西尾聡雄は必ず時間を作って青木岑と毎日電話をしていた。
青木岑はネットで見た言葉を思い出した。人の心にあなたがいれば、風が吹こうが雨が降ろうが、どんなに忙しくても連絡をくれる。でも、心にあなたがいなければ、忙しいという言い訳をして、連絡してこない。
西尾聡雄はいつも順調だと言っているけれど……
青木岑だって分かっている。あんな状況で、てんてこ舞いなのに、順調なはずがない。
遺族の悲痛な叫び、政府からの圧力、同業者の裏切り、競合他社の嘲笑、そして事件の首謀者たちの責任逃れと逃亡……
西尾聡雄は一人で、この途方もない混乱に立ち向かっている……