「お母さん、安心して。このお金は西尾家のものじゃなくて、私が稼いだ給料よ。今は食べ物に困ってないし、このお金は特に使い道もないの。お母さんは今、お店を経営してて、時々商売が上手くいかない時もあるでしょう。自分にそんなに厳しくしないで。私たちはもう大きくなったんだから、お母さんは幸せな生活を送るべき時なのよ」
永田美世子が何を言っても、青木岑は封筒を母親のエプロンのポケットに押し込んだ。
中には四十万円が入っていた……
青木岑も母親にあまり多くは渡せなかった。なぜなら、多額の現金を渡しても使わないし、家に置いておくのも安全ではないからだ。
「わかったわ。じゃあ、これは全部預かっておくから、必要な時に渡すわね」
「私は使わないから、生活費として使ってよ。お母さん……もし実家に帰りたかったら、いつか休みを取って一緒に帰りましょう」
青木岑は、母親が何年も実家に帰っていないことを漠然と覚えていた……
「帰らないわ。帰って何するの?お祖父さんもお祖母さんももういないし、ギャンブル中毒の叔父たちだけよ。彼らは私を見れば金のことしか考えない。この前、叔母さんがあなたがテレビのインタビューに出てるのを見て、電話してきたのよ。あなたがお金持ちと結婚したって言って、御子にもいい相手を見つけてほしいなんて。私は断ったわ。あの叔母さんみたいな人とは関わりたくないわ。面倒なことになるだけよ」
「そう。でも実家に帰るときは私に教えてね。一緒に行くから」
「ええ、もう帰らないわ。これからは、あなたと幸治がいる場所が私の家よ」永田美世子は皿を洗いながら言った。
「お母さん……そうだ、急に思い出したんだけど」
「何?」
「聞いたんだけど……私が生まれてすぐの頃、青木源人がDNA検査をしたがって、原伯父が私を連れて行ったって本当?」
「ええ、その時私はまだ産後で、そんなことに構ってられなかったわ」
「それで私が彼の娘だって証明されたのに、何も言わなかったの?」青木岑は探るように尋ねた。
「お金を渡してきたわ。二百万円くらいかしら。私はあの人の汚い金なんて欲しくなかったから……すぐに原伯父に返させたの。それ以来、一切関わりを持たないことにしたわ」
「そう……」青木岑は物思いに沈んだ様子だった。