「もう過ぎ去りました、奥様」
「よろしい」
青木岑は頷いた……
笹井春奈という女は本当に嫌な奥様で、青木岑は一言で彼女をTへ左遷した。
これも因果応報というものだ……
美しく言えば支社長だが、実際は後始末をする人に過ぎない……
あれほどの大事件が起きた後では、短期間で業績を上げることは不可能……
しかし笹井春奈は精神的に強く、この程度では辞職もせず……
歯を食いしばって続けることを選んだ……このような相手は実に恐ろしい……
途中で
西尾聡雄は再び電話を受けた。今度は父親からの直接の電話だった。
「西尾、時間があったら母さんに会いに来てくれないか。本当は大したことないんだが、元気な人が病院に長く居すぎると病気になってしまうものだ……今日は少し元気がないように見えた」
「分かりました」
電話を切ると、西尾聡雄の表情は相変わらず冷静だった……
「行ってきたら……?」青木岑が勧めようとした。
「お前、何が食べたい?」西尾聡雄は彼女の言葉を遮った。
「玲子が、親戚の家で豚足の焼き物屋を開いていて美味しいから、私たちを連れて行きたいって」
「親切にも最後まで、佐藤然も誘っておいたよ。そういえば、私たち四人で集まるのも久しぶりだね」
「そうね、久しぶりに時間が取れて良かった」西尾聡雄は微笑んだ。
二人が車で到着し、駐車を済ませたが、例の「小笨蛋」という豚足屋がまだ見つからなかった。
青木岑は再び熊谷玲子に電話をかけた……
熊谷玲子は佐藤然なら見つけられると言い、果たしてジャガーが彼らのマイバッハの後ろに停まった。
佐藤然はまだ警察の制服のままだった……
「やあ、お二人とも」
「玲子が見つけられるって言ってたけど?この場所一体どこにあるの?」青木岑は困惑した表情を浮かべた。
「ああ、住宅街の中だよ……この路地を通って……それから左に曲がって五十メートル行って、右に曲がれば見えるよ」
「本当に隠れた場所ね……こんな場所で、お客さんが来るのかしら?赤字になっちゃうんじゃない?」
青木岑は感心して言った……
「良い酒は奥座敷にありってね。この地域の食べ物番組で紹介されたらしくて、とても繁盛してるんだ。よく席が無くて並ぶくらいだって……」
「熊谷玲子とよく来るんだろう」西尾聡雄は佐藤然をじっと見て静かに尋ねた。