「どうしたんだよ?」矢野川は口を大きく開けて、関口遥を見つめた。
関口遥は女性を口説くのが得意な方ではなかったが……今まで失敗したことはなかったのに。
やっと気になる子に出会えたのに、その子の婚約式に出席することになるなんて?
「別に……何でもないよ」関口遥は苦笑いを浮かべた。
「あのさ……ベッドインした?」矢野川が尋ねた。
「してない」
「マジかよ……見直したわ」矢野川は、あの子は煮え切った鴨が飛んでいったようなものだと思った。
あの日、月下倶楽部で、あんなに……激しく遊んでたのに……
最後には婚約することになって……しかも許せないのは関口遥とベッドインもしてないことだ。
「縁がなかったんだろうな……」関口遥は正直、中島美玖のことが少し気になっていた。
でも……相手にその気がないんだから……
それに相手は婚約するし、両家とも名家同士なんだから、自分は関わらない方がいいだろう?
「そんな弱気な事言うなよ。桑原様を見習えよ……結婚してても諦めないし放棄しないぞ」
「俺に何の関係があるんだよ?」桑原勝は無実の表情を浮かべた。
まさに巻き込まれただけなのに……
「いや、俺が言いたいのは……関口坊ちゃんが……やっと良い子に出会えて、気取らなくて、グリーンティーでもなく、生意気でもない女の子で、春が来るかと思ったのに……春が来る前に、いきなり冬が来ちゃったってことさ」
矢野川は本当に関口遥が不憫でならなかった……
「仕方ないさ……俺の出番が遅かったんだから」関口遥は両手を広げた。
この話題を出されて桑原勝もまた憂鬱になった……
「遅れたからって何だよ?出会って知り合えたのも縁だろ……俺は君とは考えが違う。青木岑のことは……しつこくはしないけど、絶対に諦めない……」桑原勝の決意は固そうだった。
「桑原様を見てみろよ、それと比べてお前は……」
矢野川は軽蔑するような目で関口遥を見た……
関口遥はただ軽く笑うだけだった……
彼は桑原勝のように激しい性格ではないし、そんなに直接的でもない……
中島美玖を逃したのは少し残念だけど……そこまで受け入れられないことでもない。
そもそもあまり接触もなかったし……
だからそんなに辛くもないし、ただ少し残念に思うだけ……
翌朝
西尾聡雄は早めに起きて、青木岑と朝食を共にした。