「私の絵を、どうか嫌わないでください」細川詩は誠実に笑いながら言った。
西尾聡雄は細川市長から聞いていた。細川詩はここ数年イタリアで絵画を学んでいて、かなり夢中になっているようだと。
彼は慎重に絵巻を開いた。確かに衝撃的だった……
他の留学帰りの人たちとは違い、細川詩の絵は外国風でもなく、ゴッホのような模倣でもなかった。
純粋な中国風の水墨画だった……
絵巻には、黒い枯れ枝、落ち葉、わずかに隆起した丘、遠くには大きな山と明月が描かれていた。
川面にはきらめく波、孤帆の遠影、そして近くには、月に向かって杯を掲げる故人の姿があった。
とても風情があった……
「これは……君が描いたの?」西尾聡雄は少し驚いて尋ねた。
「はい、中国風の要素のある絵が大好きで、この数年ずっと夢中で研究してきました。父の言葉を借りれば、私は魔に取り憑かれたようだと」
「確かに造詣が深いね。年齢からは想像できないほどだ。知らなければ、某水墨画の大家の傑作だと思うところだ」
「それは褒めていただいているということでしょうか?」細川詩は甘く微笑んだ。
「確かに褒めているんだ」
「気に入っていただけて良かったです」
「プレゼントありがとう。妻に代わってお礼を言わせてもらう」西尾聡雄は刻々と青木岑のことを忘れなかった。
細川詩は唇を噛んで黙り込んだ……
「今回は、どのくらい滞在する予定?」西尾聡雄は何気なく尋ねた。
「もう帰りません」
「戻らないの?」
「はい、ここに残るつもりです。両親も年を取ってきましたし、私一人しか娘がいませんから……父は……生きているうちに孫を抱きたいと言っているんです」細川詩は恥ずかしそうに笑った。
「そうだね。女の子はいずれ嫁ぐものだ。良い家に嫁げば、細川伯父も安心するだろう」
「そういえば、あなたの帰国も……結婚も突然でしたね……」細川詩は西尾聡雄を見つめながら苦笑いを浮かべた。
「突然かな?これは7年かけて計画したことだよ」西尾聡雄は淡々と言った。
「7年も計画を?」細川詩は少し信じられない様子だった。
そして彼女は続けて言った。「それだけ彼女のことを愛しているんですね」
「そうだよ。愛している、とても愛している。彼女と結婚できたことは、私の人生で最高の出来事だ」西尾聡雄は否定せず、率直に認めた。