「えっと……私たちって知り合いでしたっけ?」青木岑は細川詩という名前に聞き覚えがあったものの。
でも本当に彼女とは親しくないのに?
「あなたは西尾聡雄さんの奥様ですよね。私は彼の友人です。突然の訪問で申し訳ありません」
「でも……今からお昼ご飯に行くところなんですけど?」
青木岑は勤務時間中に来客対応したくなかったし、食事も邪魔されたくなかった。別に高慢ぶっているわけではなく、ただこの細川詩という人が自分のランチを邪魔するほど重要だとは思えなかっただけだ。
「一緒に食べてもいいですか?」
「でも私は社員食堂で食べるんです」
青木岑は本当に、あまり親しくない人と一緒に食事に行くのが好きではなかった。社交辞令や応対が嫌いだった。
はっきりと断った方がよっぽどいい……
「南区の社員食堂も試してみたいんです。食べながら話しましょう」
青木岑が何か言う前に、細川詩は嬉しそうに身を翻して先に歩き出した……
問題は、彼女は社員食堂がどこにあるか知っているのだろうか?
結局、青木岑が案内することになるのに……
しょうがない、諦めよう……
社員食堂にて
青木岑は先にカードで食事を注文したが、礼儀正しく細川詩に渡した。
「ありがとう」細川詩は甘く微笑んだ。
青木岑はまた列に並んで二度目の注文をした……
同じメニューを二人分、やはり肉一品に野菜一品、そしてスープ。
スパイシー牛肉、ゴーヤと卵炒め、冬瓜と羊肉の春雨スープ。
細川詩はお嬢様らしい態度もなく、うつむいて牛肉を一口食べ、何度も褒めた。
「美味しい……ここで働けて幸せですね」
「以前のシェフの料理を食べていないからですよ……あの味は……」
「これより美味しかったんですか?」細川詩は疑わしげに。
「いいえ、あれは本当にしびれる経験でした……」
「ぷっ……面白い方ですね」
細川詩は青木岑の言葉に笑ってしまった……
青木岑も本当にお腹が空いていたので、気にせず大きな口で食べ始めた。とても美味しかった。
細川詩は上品な食べ方で、とても育ちがよく、時々スープを少しずつ飲んでいた。
十数分で、二人とも食べ終わった……
「お腹いっぱいですか?おかわりもできますよ?」
「はい、満腹です。ご馳走様でした」細川詩はお礼を言った。