「えっと……私たちって知り合いでしたっけ?」青木岑は細川詩という名前に聞き覚えがあったものの。
でも本当に彼女とは親しくないのに?
「あなたは西尾聡雄さんの奥様ですよね。私は彼の友人です。突然の訪問で申し訳ありません」
「でも……今からお昼ご飯に行くところなんですけど?」
青木岑は勤務時間中に来客対応したくなかったし、食事も邪魔されたくなかった。別に高慢ぶっているわけではなく、ただこの細川詩という人が自分のランチを邪魔するほど重要だとは思えなかっただけだ。
「一緒に食べてもいいですか?」
「でも私は社員食堂で食べるんです」
青木岑は本当に、あまり親しくない人と一緒に食事に行くのが好きではなかった。社交辞令や応対が嫌いだった。
はっきりと断った方がよっぽどいい……
「南区の社員食堂も試してみたいんです。食べながら話しましょう」