第12章 あの女の子

出雲絹代は優しい心の持ち主だった。「これからは出来る限り助けてあげましょう。遠い親戚より近くの隣人って言うでしょう。障害者の方も大変だし」

水野春智は二人の話を聞いた後、水野日幸を見て言った。「可哀想だね。ケーキを持って行ってあげたら?どうせ私たちも食べきれないし」

出雲絹代:「もう食べないの?」

水野春智はにやにや笑って:「ダイエットしなきゃいけないんだよ。さっきまで二人とも私のことを批判してたじゃない!」

出雲絹代:「批判なんかしてないでしょう?あなたの健康を考えてのことよ。このまま太り続けたら、いつか問題が起きるわよ」

水野日幸は小鳥のようにこくこくと頷いた。

水野春智は取り入るように笑って:「分かったよ、明日からダイエット始めるから、それでいい?」

水野日幸は笑顔でケーキを持って立ち上がった:「パパ、約束は守らなきゃダメよ。明日から私が運動を監督して、ママが健康食を作るから。二段構えで行くわよ。後で戻ってきたら、詳しい計画を立ててあげる」

水野春智は娘を指差しながら、愛情たっぷりに笑って小声で自慢げに:「お母さん、日幸が帰ってきてから、私との仲が更に良くなった気がするよ」

出雲絹代は彼のケーキを持つ手を押さえた:「一年以上会ってなかったんだもの。寂しかったに決まってるでしょ?」

彼女も気付いていた。娘が帰ってきてから、以前より甘えん坊になっていることに。

水野春智は気まずそうに手を引っ込め、丸々とした腹を撫でながら:「ちょっと食べたくなっただけさ。でも食べちゃダメ、絶対ダメ!」

水野日幸が塀の上に登った時、長谷川深の姿は見えなかった。冷たい風の中しばらく待っていると、葛生が出てきたので呼びかけた:「イケメンさん、イケメンさん!」

葛生が顔を上げると、少女が何かを持って手を振っているのが見えた。近寄って行き、彼女に向かって「シーッ」と指を立てた:「うちのボスは静かが好きなんです。もう少し声を落としてください」

水野日幸は笑顔で小さな籠に入れたケーキを紐で下ろしながら:「イケメンさん、これをお兄さんに渡してくれませんか?」

葛生は心の中で思った。どのお兄さん?誰がお兄さん?

水野日幸:「車椅子のお兄さんよ。今日私の誕生日だから、誕生日ケーキをおすそ分けして、お裾分けしたいの」

葛生は咳払いをした。ボスがこんなものを食べるはずがないと伝えるべきか迷ったが、少女の善意を無下にはできなかった:「分かりました」

水野日幸:「ありがとうございます。あなたも食べる?もう一切れ持ってきましょうか」

葛生:「甘いものは苦手なので、結構です。ありがとうございます」

この少女、面白いな!

ボスもこの少女に対してはかなり寛容みたいだ。花も受け取ったしね!

もしかしたらこの少女が将来ボスと仲良くなるかもしれない。ボスの側近として、先手を打っておかないと。

葛生は命がけでケーキを持って部屋に入り、書斎のドアをノックして恭しく言った:「ボス、隣の花を贈ってきた少女が、今度はケーキを持ってきました。お召し上がりになりますか?」

隣、花、少女という言葉を特に強調して発音した。

書斎の中は静かで、書類をめくる音だけが聞こえていた。

葛生は2分待ったが返事はなかった。ボスが何も言わないということは、最良の答えだろうと思い、ケーキを持って立ち去ろうとした。

「持ってきなさい」

書斎からついに、磁性のある少し掠れた男性の声が聞こえた。

葛生は一瞬固まり、目に明らかな喜色が浮かんだ。興奮を抑えながらドアを開け、ケーキを彼の目の前の机に置いた。

ボスがついに外界の出来事に反応を示した。

彼は仇を討って以来、まるで生死を悟ったかのように、この世に未練を持たなくなっていた。

ただ一人、ずっと探し続けているあの少女以外は。

彼が生きているのは、ただ彼女を見つけるためだけだった。

しかし日本中を探し回っても、あの少女を見つけることはできなかった。